M&Aの企業価値評価とは?基本的な算出方法と売り手・買い手のポイントを解説【2025年最新】
企業価値評価とは、企業の経済的な価値を金額で算定することを指し、M&Aにおいて極めて重要なプロセスです。
特に非上場企業のM&Aでは、市場株価が存在しないため、収益性・資産状況・将来性などを多角的に分析し、合理的な価格を算定する必要があります。
また、企業価値は立場によって見え方が異なるため、売り手と買い手の双方が評価の目的や手法を正しく把握しておくことが重要です。
本記事では、企業価値評価の基本から、代表的な手法、非上場企業特有のポイント、そして売り手・買い手それぞれの視点で押さえておくべき評価の要点まで、網羅的に解説します。
企業価値評価とは?
企業価値評価は、M&Aにおいて適正な売買価格を設定するための重要な指標です。
ここでは、まずその基本的な考え方と、税務上の株価との違いについて解説します。
M&Aにおける「企業価値評価」とは何か
M&Aにおける「企業価値評価」とは、対象企業が持つ価値、すなわち将来にわたって生み出すと見込まれる収益や保有資産の価値をもとに、その企業全体の経済的な価値を算定することを指します。
特に非上場企業の場合、株式が市場で取引されていないため、時価や市場価格を指標とすることができません。そのため、M&Aの実務では、第三者が合理的と考える「企業価値」を何らかの手法で算出し、売買価格の妥当性を検証する必要があります。
企業価値は、次のように構成されます。
企業価値 = 事業価値 + 非事業用資産
※事業価値とは、企業が将来にわたり生み出すと見込まれる利益の価値です。
※非事業用資産は、遊休不動産や余剰現預金など、本業とは直接関係のない資産です。
この企業価値から、借入金などの有利子負債を差し引いたものが、実際に株主が受け取る対象となる株式価値(=株主価値)です。
M&Aでは、この株式価値を明確にすることが最終的な価格交渉や契約条件の土台となります。
企業価値評価(バリュエーション)を通じて、買い手・売り手の双方が価格の根拠を共有できるようになれば、交渉の納得度も高まり、スムーズなM&Aの実行につながります。
税務上の株価とM&Aにおける株価の違い
税務上の株価とM&Aにおける株価は、目的と評価基準が異なるため、算出される金額も大きく異なる場合があります。
税務上の株価は、主に相続税や贈与税の算定を目的としており、税法に基づいて計算されます。
一方、M&Aにおける株価は、企業の事業価値全体を評価し、将来の収益性や成長性を考慮して決定されるのが特徴です。
つまり、M&Aにおける株価は、税務上の株価よりも企業の潜在的な価値を反映した価格設定となることが多いです。
以下の表に、税務上の株価とM&Aにおける株価の違いをまとめました。
項目 | 税務上の株価 | M&Aにおける株価 |
---|---|---|
目的 | 相続税・贈与税の算定 | M&Aの取引価格決定 |
評価基準 | 税法に基づく計算 | 企業の事業価値、将来性、市場動向などを総合的に評価 |
価格 | 比較的低い | 企業の潜在的な価値を反映し、高くなる場合がある |
M&Aにおいては、税務上の株価だけでなく、企業の将来性やシナジー効果なども考慮した上で、適切な企業価値評価を行うことが重要です。
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企業価値評価が必要な理由
M&Aにおける企業価値評価は、取引の成否を左右する重要な要素です。
売り手と買い手、それぞれの立場から、なぜ企業価値評価が必要なのかを解説します。
売り手にとっての企業価値評価の重要性
売り手にとって、企業価値評価は以下の点で非常に重要です。
- 適正な売却価格の把握:自社の客観的な価値を知ることで、不当に低い価格での売却を避けられます。
- 価格交渉の根拠:評価結果は、買い手との価格交渉における強力な根拠となります。
- M&A戦略の策定:自社の強みや弱みを把握し、より有利な条件でM&Aを進めるための戦略が立てられます。
- 企業価値向上のための改善点発見: 評価プロセスを通じて、収益性や効率性の改善点を見つけ、企業価値向上につなげられます。
企業価値評価をしっかりと行うことで、売り手はM&Aを成功に導き、最大限の利益を得られます。
買い手にとっての企業価値評価の重要性
買い手にとって、企業価値評価は以下の点で重要です。
- 買収価格の妥当性判断: 企業価値評価を通じて、買収対象企業の価格が適正かどうかを判断できます。高すぎる価格での買収を避け、投資リスクを軽減できます。
- 投資判断の根拠: 評価結果は、投資判断の正当性を裏付ける根拠となります。社内での意思決定や、投資家への説明責任を果たす上で重要です。
- シナジー効果の検証: 買収後の統合によるシナジー効果を予測し、買収の合理性を判断できます。
- リスクの把握: 評価プロセスを通じて、買収対象企業のリスク(簿外債務、訴訟リスク、技術的な問題など)を早期に発見し、買収条件に反映させられます。
買い手は企業価値評価を慎重に行うことで、M&A後のリスクを最小限に抑え、投資効果を最大化できます。
企業価値評価・アプローチ別の計算方法
企業価値を評価する方法は、大きく分けて3つのアプローチがあります。
それぞれの特徴を理解し、自社の状況や目的に合わせて適切な方法を選択することが重要です。
以下に、各アプローチの概要と代表的な計算方法を解説します。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業の将来的な収益性に着目し、将来期待されるキャッシュフローに基づいて企業価値を評価する方法です。
将来の収益を予測する必要があるため、企業の成長性や将来性が重視される場合に適しています。
代表的な計算方法としては、DCF(Discounted Cash Flow)法が挙げられます。
DCF法では、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計することで企業価値を算出します。
DCF法の計算式:
企業価値 = Σ (各期のフリーキャッシュフロー / (1 + 割引率)^期数)
インカムアプローチのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場で取引されている類似企業の株価やM&A事例を参考に、相対的に企業価値を評価する方法です。
客観的なデータに基づいているため、説得力のある評価が期待できます。
代表的な計算方法としては、類似会社比較法(マルチプル法)が挙げられます。
類似会社比較法では、PER(株価収益率)やEBITDAマルチプルなどの指標を用いて、評価対象企業の価値を算出します。
類似会社比較法の計算式(PERの場合):
企業価値 = 評価対象企業の当期純利益 × 類似企業のPER平均値
マーケットアプローチのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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コストアプローチ
コストアプローチは、企業の貸借対照表(バランスシート)に計上されている純資産額を基に企業価値を評価する方法です。
企業の過去の蓄積に着目するため、安定した収益を上げている企業や、資産価値が高い企業に適しています。
代表的な計算方法としては、純資産価額法が挙げられます。
純資産価額法では、貸借対照表上の資産から負債を差し引いた純資産額を企業価値とします。必要に応じて、資産や負債を時価評価に修正します。
純資産価額法の計算式:
企業価値 = 資産の時価評価額 – 負債の時価評価額
コストアプローチのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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企業価値評価においては、上記3つのアプローチを単独で使用するだけでなく、複数のアプローチを組み合わせて総合的に判断することが重要です。
非上場企業における企業価値評価の方法と注意点
M&Aにおける企業価値評価は、上場企業と非上場企業で大きく異なります。
上場企業であれば、株式市場で取引されている株価を参考にできますが、非上場企業には客観的な市場価格が存在しません。そのため、より慎重かつ多角的なアプローチが重要です。
以下では、代表的な評価手法とあわせて、注意すべきポイントについて解説します。
非上場企業では「コストアプローチ」が主流
非上場企業の企業価値評価では、一般的に「コストアプローチ」が主流となっています。
コストアプローチとは、企業の純資産に着目し、その価値を評価する方法です。
企業の過去の蓄積に基づいて価値を算定するため、客観性が高く、比較的簡便に評価できるというメリットがあります。
ただし、将来性や成長性は考慮されないため、M&Aにおける評価額としては保守的な金額となる傾向があります。
資産・収益・併用方式の3手法がある
非上場企業のコストアプローチには、主に以下の3つの手法があります。
- 資産方式:企業の資産と負債を時価評価し、純資産額を算出する方法
- 収益方式:企業の将来の収益を予測し、現在の価値に割り引いて算出する方法
- 併用方式:資産方式と収益方式を組み合わせて評価する方法
これらの手法を組み合わせることで、より多角的な視点から企業価値を評価できます。
資産方式のメリットと注意点
資産方式は、企業の貸借対照表(バランスシート)を基に評価を行うため、客観性が高く、理解しやすいというメリットがあります。特に中小企業においては、財務諸表が整備されていることが多いため、比較的容易に適用できます。
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しかし、資産方式は、あくまで過去の蓄積に基づいた評価であるため、将来の収益性や成長性を反映できません。
また、不動産などの含み益や、ブランド価値などの無形資産も評価に反映されないため、企業の実態価値を十分に反映できない場合があります。
メリット | 注意点 |
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収益方式・併用方式を採用するケースとは?
収益方式は、将来の収益性を重視するM&Aにおいて有効な評価手法です。
特に、成長性の高い企業や、独自の技術やノウハウを持つ企業においては、収益方式を用いることで、より高い企業価値を算定できる可能性があります。
併用方式は、資産方式と収益方式のメリットを組み合わせることで、よりバランスの取れた評価が可能です。
例えば、安定した収益基盤を持つ企業においては、資産方式をベースに、将来の成長性を加味するために収益方式を組み合わせる、といった使い方があります。
評価手法 | 採用するケース |
収益方式 | 成長性の高い企業、独自の技術やノウハウを持つ企業 |
併用方式 | 安定した収益基盤を持ち、将来の成長性も期待できる企業 |
評価の精度は補正処理と前提条件に左右される
非上場企業の企業価値評価は、評価者の主観や前提条件によって大きく左右される可能性があります。
そのため、評価の精度を高めるためには、以下の点に注意が必要です。
- 適切な補正処理:財務諸表の粉飾や、偶発的な要因による一時的な収益の変動などを考慮し、適切な補正処理を行う
- 合理的な前提条件:将来の収益予測や割引率など、評価に用いる前提条件を、客観的なデータや市場の動向に基づいて合理的に設定する
- 複数の専門家の意見:一つの評価結果に偏らず、複数の専門家(会計士、税理士、M&Aアドバイザーなど)の意見を参考に、多角的な視点から評価を行う
これらの点に注意することで、より客観的で精度の高い企業価値評価が行え、M&A交渉を有利に進めるための材料にできます。
企業価値評価を行うべきタイミング
M&Aにおける企業価値評価は、M&Aの各段階で重要な役割を果たします。
これから解説するような適切なタイミングで企業価値評価を行うことで、M&Aの成功率を高められます。
M&Aを検討し始めた段階
M&Aを検討し始めた初期段階では、自社の価値を客観的に把握するために企業価値評価を行うのが望ましいです。
特に売り手側にとっては、現時点での企業価値を明確にすることで、売却価格の目安を立てたり、交渉に向けた方針を定めたりするうえで有効です。
また、買い手側にとっても、対象企業の評価額が予算に見合うかどうかを早期に判断できるため、無駄な交渉を避けることにもつながります。
M&Aスキームを決定する前
企業価値評価は、適切なM&Aスキーム(株式譲渡・事業譲渡・合併など)を決定する上で欠かせない要素です。
例えば、企業価値と資産の内訳を比較することで、資産単体での譲渡が有利か、株式ごと譲渡した方が合理的かを検討できます。
また、買収価格に対する納税や会計処理の影響も異なるため、税理士やアドバイザーと連携してスキーム設計を行う際の判断材料になります。
デューデリジェンス前の事前評価として
買収監査(デューデリジェンス)を実施する前に、ある程度の企業価値を試算しておくことで、調査範囲や重点ポイントを明確にできます。
例えば、仮評価によってリスクが高そうな資産や事業に注目することで、効率的なデューデリジェンスが可能です。
また、売り手にとっても、想定価値を事前に整理しておくことで、交渉過程での不利な条件提示を避けられます。
交渉フェーズでの参考指標として
最終的な価格交渉では、企業価値評価の結果がそのまま価格設定の根拠として使われることが多いため、精緻な算定が求められます。
この段階では、より実態に近いデータや最新の財務情報を用いた評価が必要です。
また、買い手・売り手それぞれの評価に差がある場合は、その乖離をもとに条件調整やリスク分担の交渉材料として活用されます。
企業価値評価で押さえておくべきポイント【売り手】
自社の価値を引き出すには、企業価値評価のポイントを正しく理解することがM&A成功の鍵です。
企業価値評価を行う上で、売り手側が特に意識すべき4つのポイントについて解説します。
収益性と効率性の両面から企業の実力を可視化する
企業価値評価では、単に売上高や利益額といった収益性だけでなく、その収益を生み出すための効率性も重視されます。
例えば、同じ利益を上げている企業でも、少ない投資で効率的に利益を生み出している企業の方が、高い評価を受ける可能性があります。
そのため、以下の指標を分析し、自社の強みを明確に示せるように準備しましょう。
- 売上高総利益率:売上高から売上原価を差し引いた粗利益の割合を示し、企業の収益力を測る指標となります。
- 営業利益率:本業での稼ぐ力を示す指標であり、高いほど収益性が高いと判断されます。
- 自己資本利益率(ROE):自己資本に対する利益の割合を示し、企業の自己資本の運用効率を測る指標です。
- 総資本回転率:総資本がどれだけ効率的に売上高に結びついているかを示す指標です。
これらの指標を同業他社と比較したり、過去の推移を分析したりすることで、自社の強みや改善点が見えてきます。
M&A交渉においては、これらの客観的なデータに基づいて、自社の企業価値をアピールすることが重要です。
財務の健全性を定量的に証明する
企業の財務状況は、企業価値評価において非常に重要な要素です。
買い手は、企業の安全性や将来性を判断するために、財務諸表を詳細に分析します。
そのため、売り手は、以下の指標を活用して、自社の財務の健全性を定量的に証明できるように準備しておく必要があります。
- 自己資本比率:総資本に対する自己資本の割合を示し、企業の財務的な安定性を示す指標です。
- 流動比率:短期的な支払い能力を示す指標であり、高いほど安全性が高いと判断されます。
- 固定比率:固定資産が自己資本でどれだけ賄われているかを示す指標であり、低いほど財務の安定性が高いと判断されます。
- 有利子負債比率:総資本に対する有利子負債の割合を示し、企業の借入依存度を示す指標です。
これらの指標を改善することは、企業価値を高めるだけでなく、M&A交渉を有利に進める上でも重要です。
例えば、自己資本比率を高めたり、有利子負債を削減したりすることで、買い手からの評価を高められます。
資産の含み益やブランド価値も評価に織り込む
企業価値評価では、貸借対照表に記載された帳簿価格だけでなく、含み益やブランド価値といった実態を反映した資産価値も考慮されるケースがあります。
例えば、自社が保有する不動産の中には、取得から年数が経過しており、帳簿価格と現在の時価に大きな差が生じているものもあるでしょう。このような含み益は、企業全体の価値を押し上げる要因となり得ます。
さらに、長年にわたり築いてきたブランド力や顧客との信頼関係などの無形資産も、将来的な収益に貢献する重要な要素です。
これらを適切に評価へ反映させるには、専門家による分析に加え、客観的なデータをもとに説明する工夫が求められます。例として、ブランドロイヤルティに関する調査や過去の広告投資、顧客満足度の数値などが有効です。
「高い株価=成功」ではないと理解する
M&Aでは、高い株価で売却できることは売り手にとって魅力的です。しかし、「高い株価=良い会社」や「=成功」とは限りません。
株価が高く算定される背景には、主に以下の2つの要因があります。
① 正常利益が高く、営業権が大きい
② 純資産が厚く、現金が豊富
①の場合は、将来的にも安定した収益が見込める企業であり、本業で稼ぐ力がある「良い会社」といえます。
一方で、②のように内部留保が厚く、現預金が豊富な「キャッシュリッチ」な会社も株価が高く出やすいですが、これは必ずしも「良い会社」とは限りません。なぜなら、買い手にとっては「現金で現金を買う」構図になりやすく、経済合理性が薄れるからです。
そのため、場合によっては譲渡前に配当や役員退職金、事業譲渡などでキャッシュを整理するケースもあります。
また、株価が最も高い買い手が最適とは限りません。
例えば、シナジー効果や雇用維持を重視するなら、株価がやや低くても将来性のある買い手の方が望ましい場合もあります。
M&Aの成功は、単なる株価の高さだけでなく、自社の目的や価値観に合った買い手を見つけ、Win-Winの関係を築くことによって実現されます。
そのため、M&A交渉においては、株価だけでなく、さまざまな要素を総合的に考慮し、最適な意思決定を行うことが重要です。
企業価値評価で押さえておくべきポイント【買い手】
M&Aにおける企業価値評価は、買い手にとって投資判断の根幹をなす重要なプロセスです。
ここでは、買い手が企業価値評価で特に注意すべきポイントを解説します。
M&A価格と期待リターンのバランスを見極める
企業価値評価によって算出された価格は、あくまで交渉の出発点に過ぎません。
買い手は、その価格が将来的に見込まれるリターンと見合っているかを慎重に判断する必要があります。M&A後の統合効果(シナジー)や市場環境の変化などを考慮し、期待される収益性を詳細に分析しましょう。
独自の投資判断基準を設定し、対象企業の株価が割高なのか割安なのか判断することが重要です。
期待リターンを算出する際には、以下の要素を考慮に入れると良いでしょう。
- 売上成長率: 過去の売上実績だけでなく、将来の市場成長や競合状況などを考慮した上で、 реалистичныйな売上予測を立てる。
- 収益性: 売上総利益率、営業利益率、経常利益率などの指標を用いて、対象企業の収益性を分析する。
- キャッシュフロー: 投資回収期間を考慮し、将来のキャッシュフローを予測する。
- リスク: 業界特有のリスク、経営リスク、財務リスクなどを評価し、期待リターンに反映させる。
実態収益と将来計画の整合性をチェックする
企業価値評価は、過去の財務データに基づいて将来の収益を予測しますが、その将来計画が現実的なものであるかを精査する必要があります。
経営陣へのヒアリングや市場調査を通じて、将来計画の根拠となる市場動向や競合状況、技術革新などを確認しましょう。
特に、非上場企業の場合、オーナー経営者の意向が大きく反映されているケースがあるため、客観的な視点での検証が不可欠です。
整合性をチェックする際には、以下の点に注目しましょう。
- 市場成長率との比較: 対象企業の売上成長率が、市場全体の成長率を大きく上回っていないかを確認する。
- 競合他社の動向: 競合他社の戦略や市場シェアの変化などを考慮し、対象企業の競争優位性が維持できるかを検証する。
- 投資計画の妥当性: 将来計画を実現するために必要な投資額が、対象企業の財務状況に見合っているかを確認する。
- 経営陣のコミットメント: 経営陣が将来計画の達成に向けて、十分なコミットメントを持っているかを確認する。
簿外債務や経営依存などのリスクを把握する
財務諸表に記載されていない簿外債務や、特定の経営者に依存した経営体制は、M&A後のリスク要因です。
デューデリジェンス(詳細な調査)を通じて、これらのリスクを洗い出し、企業価値評価に反映させる必要があります。
偶発債務、訴訟リスク、環境汚染リスクなど、潜在的なリスクを網羅的に調査しましょう。
リスクを把握する際には、以下の調査を行うと良いでしょう。
- 法務デューデリジェンス: 契約書、訴訟記録、行政処分などを確認し、法的なリスクを評価する。
- 財務デューデリジェンス: 会計帳簿、税務申告書、監査報告書などを確認し、財務的なリスクを評価する。
- ビジネスデューデリジェンス: 顧客、サプライヤー、競合他社などを調査し、事業上のリスクを評価する。
- 環境デューデリジェンス: 土壌汚染、大気汚染、水質汚染などを調査し、環境リスクを評価する。
算出価値と実態価値の乖離を検証する
企業価値評価によって算出された価値は、あくまで理論的なものであり、必ずしも実態価値と一致するとは限りません。
市場環境や競合状況、経営戦略など、数値化できない要素も考慮し、算出価値との乖離を検証する必要があります。
例えば、ブランド力や技術力、顧客ロイヤリティなどは、財務諸表に表れにくいものの、企業価値に大きく影響する要素です。
M&A後を見据え、実態価値を総合的に判断することが重要です。
実態価値の乖離を検証する際には、以下の点に留意しましょう。
- 定性的な情報の収集: 経営陣へのインタビュー、従業員へのアンケート、顧客へのヒアリングなどを通じて、定性的な情報を収集する。
- 業界専門家の意見: 業界専門家やアナリストの意見を参考に、対象企業の市場におけるポジションや将来性を評価する。
- 過去のM&A事例の分析: 類似のM&A事例を分析し、取引価格や成功要因、失敗要因などを把握する。
- シナジー効果の検証: M&Aによって期待されるシナジー効果が、現実的に達成可能かを検証する。
M&Aにおける企業価値評価の本質を理解し、最適な意思決定を
M&Aにおける企業価値評価は、取引の成否を左右する極めて重要なプロセスです。
企業価値評価は、単なる数字の算出にとどまらず、企業の潜在的な価値やリスクを可視化し、M&A交渉を有利に進めるための羅針盤となります。
特に非上場企業においては、評価手法の選択や前提条件の設定が、評価額に大きな影響を与えるため、慎重な検討が必要です。
自社の状況に合わせた適切な企業価値評価を行い、最適な意思決定につなげてください。