温泉の廃業は回避できる?温泉・旅館業界のM&A動向と事例・メリット

コロナ禍による客足の減少や燃料費の高騰、そして深刻な人手不足によって、多くの温泉施設や旅館の廃業が増えています。
しかし、安易な廃業にはリスクも伴います。建物の解体費用や原状回復には莫大なコストがかかりますし、長年支えてくれた従業員の雇用も失われてしまうからです。
そこで今、業界で注目されているのがM&Aによる第三者への事業承継という選択肢です。
赤字や債務超過であっても、温泉権や独自の強みが評価され、事業を継続できるケースが増えています。
本記事では、廃業が増加する温泉施設業界の現状を整理したうえで、M&Aによって事業を存続させるメリットや実際の成功事例、売却までの具体的な流れを解説します。
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廃業が相次ぐ温泉施設業界の現状と背景

日本国内において、温泉は古くから愛されてきた重要な観光資源であり、文化でもあります。
しかし近年、その温泉施設業界がかつてない苦境に立たされています。全国各地で老舗旅館や日帰り温泉施設の廃業が相次ぎ、ニュースで取り上げられることも珍しくありません。
なぜ今、これほどまでに廃業が増えているのでしょうか。まずは業界を取り巻く現状と、その背景にある構造的な変化について解説します。
市場規模の縮小と温泉施設数の減少傾向
温泉施設業界は、長期的な縮小傾向にあります。かつては社員旅行や地域の団体旅行などで賑わった温泉地も、ライフスタイルの変化とともに個人旅行中心へとシフトしました。
これに伴い、大規模な宴会場を持つような従来型の温泉旅館は、稼働率を維持するのが難しくなっています。
環境省が発表している温泉利用状況のデータを見ても、宿泊施設のある温泉地や利用客数は減少傾向が続いています。

(情報引用元:環境省「温泉地に関する参考資料」)
特に地方の小規模な温泉地ではその傾向が顕著であり、集客力の低下がそのまま経営体力へのダメージとなっています。
また、施設の数自体も減少の一途をたどっています。
後継者が見つからないまま経営者が高齢化し、体力的な限界を迎えて黒字廃業を選択するケースもあれば、設備の更新費用を賄えず、故障を機に廃業を決断するケースもあります。
市場全体のパイが小さくなる中で、生き残りをかけた競争は年々激化しているのが実情です。
コロナ禍が与えた決定的な打撃と客足の変化
業界に追い打ちをかけたのが、2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大です。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による移動制限は、観光業に壊滅的な打撃を与えました。
特に温泉施設にとっては、以下の3点が大きな痛手となりました。
- 団体客の消失
これまで収益の柱であった歓送迎会や社員旅行、バスツアーなどの団体客がほぼゼロになりました。 - 高齢者層の自粛
温泉を日々の楽しみにしていた高齢者層が、感染リスクを恐れて外出を控えるようになりました。 - インバウンドの途絶
急成長していた訪日外国人観光客の需要が、一瞬にして蒸発しました。
現在は人流が戻りつつあり、インバウンド需要も回復傾向にありますが、コロナ禍で積み上がった借入金(ゼロゼロ融資など)の返済が始まり、キャッシュフローを圧迫しています。
「客足は戻ったが、経営は火の車」という施設も少なくありません。また、コロナ禍を経て消費者のニーズが部屋食、個室露天風呂といったプライベート重視のスタイルへ変化しており、それに対応できない古い施設は選ばれにくくなっています。
燃料費高騰と深刻な人手不足による経営圧迫
売上の回復が追いつかない中で、経費の増大が利益を大きく削っています。
まず、ロシア・ウクライナ情勢や円安の影響によるエネルギー価格の高騰です。
温泉施設は、ボイラーでお湯を沸かしたり、大規模な館内の空調を維持したりするために、大量の重油やガス、電気を使用します。光熱費が従来の1.5倍から2倍近くに跳ね上がった施設も多く、損益分岐点が大幅に上昇してしまいました。
さらに深刻なのが人手不足です。宿泊・飲食サービス業は他産業に比べて賃金水準が低い傾向にあり、コロナ禍で一度離職したスタッフが戻ってこないという現象が起きています。
「予約は入るのに、清掃や配膳をするスタッフが足りないため、稼働率を制限せざるを得ない」といった機会損失に悩む経営者は非常に多いです。
求人を出しても応募がなく、派遣スタッフを頼れば高額なコストがかかるというジレンマに陥っています。
このように、市場の縮小、コロナ禍の負債、コスト高、人手不足という四重苦が、多くの温泉施設オーナーに廃業を決断させているのが現状です。
温泉施設や旅館経営が直面する廃業要因と課題

外部環境の厳しさもさることながら、施設内部にも経営継続を阻む大きな壁が存在します。
特に、ハード面(建物・設備)の老朽化とソフト面(人・サービス)の継承問題は、多くのオーナーが頭を抱える共通の悩みです。
ここでは、廃業の直接的な引き金となりやすい4つの要因について掘り下げていきます。
施設の老朽化と高額な修繕コスト
温泉施設において最も深刻な課題が、設備の老朽化です。一般的な建築物に比べ、温泉施設は劣化のスピードが早い傾向にあります。
その最大の要因は、温泉成分そのものです。泉質にもよりますが、硫黄分や塩分を含んだ湿気は、配管、ポンプ、ボイラーなどの金属部分を激しく腐食させます。
そのため、通常のホテルよりも高頻度でメンテナンスや交換が必要となります。
また、現在経営難に陥っている施設の多くは、昭和の高度経済成長期やバブル期に建設されたものです。築30年〜40年が経過し、外壁のひび割れ、雨漏り、耐震基準の未達など、建物の構造的な問題も浮上しています。
これらを全面的に改修するには、数千万円から場合によっては数億円規模の投資が必要です。
しかし、先行き不透明な現状でそれだけの巨額融資を受けることは難しく、仮に資金調達ができたとしても、残りの経営人生で投資回収できる見込みが立たないという現実があります。
親族内承継の困難さと後継者不足
かつて旅館業や温泉施設は、家業として親から子へ受け継がれるのが一般的でした。
しかし、現代において親族内承継は非常にハードルが高くなっています。その理由の一つは、職業選択の自由化と都市部への人口流出です。
経営者の子供世代はすでに都市部で就職し、安定した生活基盤を築いているケースが多く見られます。彼らにとって、地方に戻り、休みが少なく重労働である温泉業を継ぐことは容易な決断ではありません。
そして何より、経営者自身が継がせることを躊躇するケースが増えています。
「自分のような苦労はさせたくない」「借金や老朽化した施設を背負わせるのは忍びない」このように考え、子供がいてもあえて継がせないという選択をする経営者が増えているのです。
結果として、黒字経営であっても後継者が不在という理由だけで、廃業を選択せざるをえない状況が生まれています。
差別化不足による収益性の低下
顧客ニーズの多様化に対応しきれていないことも、廃業要因の一つです。
現在の旅行トレンドは二極化しています。
一泊数万円以上の高単価でも特別な体験を提供するラグジュアリー・コンセプト旅館と、必要最低限のサービスで安価に泊まれるビジネスホテル・素泊まり宿です。
この中間に位置する、いわゆる昔ながらの一般的な温泉旅館は、最も苦戦を強いられています。
「温泉があって、和室があって、一般的な会席料理が出る」だけでは、現代の旅行者には選ばれにくくなっています。
特に、団体客向けの広い宴会場や、相部屋を前提とした客室構成は、個人旅行や少人数グループが主流の現代において稼働効率を悪くする要因となっています。
収益性を高めるためには、個室露天風呂の設置や食事の質の向上、ターゲットを絞ったコンセプト作りなどのリニューアルが必要ですが、それには前述の通り資金が必要です。
廃業する場合にかかる巨額の解体費用
廃業を決断したとしても、廃業には想像を超えるコストがかかる場合があります。
特に重くのしかかるのが、建物の解体費用です。
鉄筋コンクリート造の大型旅館の場合、解体費用だけで数千万円から億単位の費用が発生することも珍しくありません。特に古い建物の場合、アスベスト(石綿)が使用されている可能性が高く、その除去作業にはさらに高額な費用と厳格な法的手続きが必要となります。
さらに、温泉施設特有の原状回復も必要です。源泉ポンプの撤去や、地下タンクの処理など、専門的な工事も発生します。
土地を売れば解体費用くらいまかなえるだろうと考えていても、地方の温泉地では地価が下落しており、解体費用のほうが土地の売却価格を上回ってしまう状態になることも多々あります。
手元に資金がなく、解体費用も捻出できないため、固定資産税を払い続けながら廃墟として放置せざるをえないという状況が、全国の温泉地で廃屋が問題となっている背景です。
温泉施設・旅館が廃業を選択する前に検討すべきM&A

前章で触れたように、廃業には巨額のコストや精神的な負担が伴います。
そこで、廃業を決める前の最後の選択肢として、あるいは前向きな出口戦略として検討すべきなのが、M&A(合併・買収)です。近年、温泉業界ではM&Aが活発に行われています。
ここでは、なぜM&Aを検討すべきなのか、その理由とメリットを解説します。
なぜ今、温泉業界でM&Aが増えているのか
一見すると斜陽に見える温泉業界ですが、投資家や異業種の企業からは魅力的な投資対象として注目を集めています。
その最大の理由は、温泉という資源の希少性とインバウンド需要の回復です。
新規で温泉を掘削し、旅館業の許可を取得して施設を建てるには、数年単位の時間と莫大な初期投資が必要です。
しかし、既存の温泉施設を買収すれば、源泉権利、建物、営業許可、そして熟練の従業員をセットで手に入れることができ、スピーディーに事業を開始できます。
また、円安を背景に訪日外国人観光客が増加する中で、日本の伝統文化であるRYOKAN(旅館)やONSEN(温泉)は、世界に誇れる強力なコンテンツです。
海外展開を見据える企業や、不動産価値の向上を狙うファンドなどが、ポテンシャルのある施設を探し回っています。
さらに、国も中小企業の事業承継を強力に後押ししています。事業承継・引継ぎ補助金などの支援制度が充実してきており、以前よりもM&Aに取り組みやすい環境が整っているのです。
廃業と比較した際のM&Aをおこなうメリット
廃業とM&A、それぞれを選択した場合の未来は大きく異なります。M&Aを選択することで、売り手(温泉経営者)には以下のようなメリットがあります。
- 廃業コストの回避と手元資金の確保
M&Aで株式譲渡や事業譲渡ができれば、数千万円規模の解体費用を負担する必要がなくなります。さらに、売却益(創業者利益)が手元に残るため、リタイア後の生活資金や、借入金の個人保証解除に充てられます。 - 従業員の雇用維持
廃業すれば従業員を解雇しなければなりませんが、M&Aであれば雇用契約も買い手企業に引き継がれることが一般的で、スタッフの雇用を守れます。 - 地域や常連客への貢献
施設が存続することで、地域への経済効果や、長年のファンである常連客の居場所が守れます。また、「自分の代で歴史を終わらせてしまった」という心理的な負い目を感じずに済みます。
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赤字施設でも買い手がつく理由
赤字経営であっても、買い手がつくケースは多々あります。
買い手企業が見ているのは、現在の損益だけではありません。以下のような要素に価値を見出しています。
- 唯一無二の源泉と立地
良質な源泉権利や、国立公園内などの好立地にあるというだけで、高い評価がつきます。 - 再生ポテンシャル
大手チェーンや再生ファンドは、効率的な運営ノウハウを持っています。「集客をWebマーケティングに切り替える」「オペレーションをIT化して人件費を削る」といった改善を行うことで、すぐに黒字化できると判断すれば買収します。 - 許認可と人材
旅館業法や温泉利用許可などの許認可は、新規取得が難しい場合があります。これらがすでに揃っており、すぐに働けるスタッフがいることは、異業種から参入する場合、大きな魅力です。
このように、経営者が負債に感じる要素が、買い手にとっては利益を生む可能性が十分にあるのです。まずは諦めずに、自社の価値を客観的に見極めることが大切です。
温泉施設業界におけるM&A事例

ここでは、大手企業による再生事例から、異業種からの参入、地域の歴史を守るための承継まで、代表的な事例を4つご紹介します。
大江戸温泉物語によるタラサ志摩ホテルの再生事例
全国規模で温泉宿を展開する大江戸温泉物語グループ株式会社が、三重県のリゾート施設「タラサ志摩ホテル&リゾート」を運営するTSCホリスティック株式会社より事業を買収した事例です。
大江戸温泉物語グループは、経営不振や後継者不足に悩む既存施設を買収し、自社ブランドとしてリブランド(再構築)することで収益性を劇的に改善させるビジネスモデルを得意としています。
本件もその典型であり、圧倒的なブランド力と集客ノウハウを投入することで、施設のポテンシャルを最大限に引き出しました。
「ハード(建物)はそのままでも、ソフト(運営・集客)を変えれば再生できる」ということを証明した好例であり、ブランド再生型M&Aの代表的なケースと言えます。
(情報引用元:大江戸温泉物語グループ「当社子会社における事業譲受に係る契約締結のお知らせ」)
ビジョンによるこしかの温泉の子会社化事例
鹿児島県霧島市で100年以上の歴史を持つ「こしかの温泉」は、名湯として知られていましたが、後継者不在という深刻な課題を抱えていました。
この歴史ある温泉宿の事業を承継したのが、グローバルWiFi事業などを展開する株式会社ビジョンです。
ビジョン社は地方創生事業の一環として同施設を子会社化し、従業員の雇用と老舗の暖簾を守りつつ、同社の強みであるWebマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメーション)のノウハウを導入しました。
グランピング施設の併設など新たな価値創造にも取り組み、伝統と最新技術を融合させて活性化に成功しています。後継者に悩む地方の老舗旅館にとって、希望となるモデルケースです。
(情報引用元:株式会社ビジョン「こしかの温泉株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」)
極楽湯HDによる設備メンテナンス企業の子会社化事例
温浴施設運営の国内最大手である株式会社極楽湯ホールディングスは、温浴施設の設備管理や水質管理を手掛ける株式会社エオネックスおよび株式会社利水社を子会社化しました。
運営会社がメンテナンス会社をグループに迎え入れることで、外注費の削減や、水質管理ノウハウの垂直統合が可能になります。これによりグループ全体の経営効率が向上し、より安全で快適な温浴サービスの提供が実現しました。
直接的な施設の売買だけでなく、こうした周辺事業のM&Aも業界の再編として活発に行われており、業界全体の競争力を高める動きとして注目されています。
(情報引用元:株式会社利水社「親会社変更に関するお知らせ」)
穴吹興産による祖谷温泉と祖谷渓温泉観光のM&A事例
西日本を中心に不動産事業を展開する穴吹興産株式会社が、徳島県の名勝・祖谷渓(いやけい)にある「祖谷温泉」と「祖谷渓温泉観光」を子会社化した事例です。
穴吹興産はもともと観光事業も手掛けており、同エリアの有力施設をグループ化することで、地域内でのドミナント(集中)戦略を強化しました。不動産開発で培った資本力とノウハウを活かし、施設の改修やサービス向上を図ることで、地域全体の観光価値を高める狙いがあります。
地元企業や近隣エリアの有力企業が、地域の観光資源を守るために手を挙げるという、地域活性化の側面も強いM&Aです。
(情報引用元:穴吹興産株式会社「祖谷渓温泉観光株式会社」「有限会社祖谷温泉」の株式譲受(子会社化)に関するお知らせ)
温泉施設や旅館のM&Aを成功させるための注意点

温泉施設のM&Aは、一般的な企業の売買に比べて特殊な要素が多く含まれます。準備不足のまま進めると、交渉中にトラブルになったり、最悪の場合は破談になったりするリスクがあります。
スムーズに売却を進め、廃業を回避するためには、事前に以下の4つのポイントを押さえておくことが重要です。
温泉権や源泉利用権など権利関係の明確化
温泉施設において最も重要な資産である温泉そのものの権利関係は、非常に複雑です。
「自分の敷地から出ているから自分のものだ」と思っていても、実際には他人の土地から引湯していたり、温泉組合が権利を持っていたりするケースがあります。
M&Aを行う際は、以下の点を明確にしておく必要があります。
- 温泉権の所在:源泉の所有権は誰にあるのか(自社所有か、借用か)。
- 引湯権の契約内容:他所からお湯を引いている場合、契約期間や更新条件はどうなっているか。
- 土地の権利:源泉がある土地の所有権と利用権は確保されているか。
買い手企業にとって、買収後に「お湯が使えなくなる」ことは最大のリスクです。権利関係を示す書類(温泉台帳の写しや契約書など)を事前に整理し、問題なく引き継げることを証明できるようにしておきましょう。
建物や設備の老朽化リスクと修繕履歴の開示
前述の通り、温泉施設の建物や設備は劣化が早いため、買い手は「買収後にどれくらいの修繕費がかかるか」を厳しくチェックします。
施設に修繕が必要な箇所があるなど、ネガティブな情報を隠して売却しようとすると、後述するデューデリジェンス(買収監査)で必ず発覚します。そうなれば信用を失い、交渉決裂や大幅な価格減額を招きます。
逆に、これまでの修繕履歴や不具合箇所を正直に開示することで、信頼関係が生まれ、スムーズな交渉が可能です。現状有姿(そのままの状態)で引き渡す代わりに価格を調整するなど、建設的な話し合いができるようになります。
旅館業法や公衆浴場法などの許認可引き継ぎ確認
温泉旅館を運営するには、旅館業法に基づく営業許可、公衆浴場法に基づく許可、食品衛生法に基づく飲食店営業許可など、多数の許認可が必要です。M&Aの手法(株式譲渡か事業譲渡か)によって、これらの許認可の手続きが異なります。
- 株式譲渡の場合:法人のオーナーが変わるだけなので、原則として許認可はそのまま維持されます(※役員変更の届出などは必要)。手続きが簡便で、スピーディーに引き継げるのがメリットです。
- 事業譲渡の場合:事業の一部または全部を別法人に売り渡す形になるため、原則として許認可は取り直し(新規申請)が必要です。
特に事業譲渡の場合、現在の建物が現行の建築基準法や消防法に適合していない(既存不適格建築物)と、新規許可が下りない可能性があります。
自社の施設がどちらの手法に適しているか、専門家を交えて慎重に確認する必要があります。
財務状況や簿外債務の透明性確保
中小規模の同族経営旅館では、会社のお金と社長個人のお金が混同されているケース(公私混同)が少なくありません。
- 社長個人が会社にお金を貸している(役員借入金)
- 会社の経費で個人的な支払いをしている
- 退職金の積立不足や未払い残業代がある(簿外債務)
これらが整理されていないと、買い手は正確な企業価値を算出できず、買収を躊躇します。
M&Aを検討し始めたら、まずは顧問税理士と相談し、貸借対照表をはじめとした財務内容を整理することから始めましょう。特に簿外債務は、後々訴訟トラブルになる恐れがあるため、洗いざらい明らかにしておく誠実さが求められます。
温泉施設をM&Aで売却するまでの流れ

M&Aは、思い立ってすぐに完了するものではありません。相談から成約(クロージング)まで、一般的には半年から1年程度の期間を要します。
廃業のタイムリミットが迫ってからでは足元を見られてしまうため、余裕を持って動き出すことが大切です。
ここでは一般的なM&Aのプロセスを5つのステップで解説します。
専門家への相談と秘密保持契約
まずはM&A仲介会社やM&Aアドバイザーなどの専門家に相談します。
温泉業界は特殊性が強いため、一般的なM&A仲介会社よりも、旅館・ホテル業界の実績が豊富な会社を選ぶのがおすすめです。
相談時には、自社の内部情報を開示することになるため、最初に秘密保持契約(NDA)を締結します。情報漏洩は風評被害や従業員の不安を招くため、情報の管理には細心の注意を払いましょう。
企業価値算定と売却先の選定
決算書などの資料を基に、自社にどれくらいの価値があるのか(いくらで売れそうか)を算出してもらいます。これがバリュエーション(企業価値評価)です。
その評価額をベースに、仲介会社がノンネームシート(社名を伏せた概要書)を作成し、買い手候補となる企業へ打診を行います。
興味を持った企業が現れたら、社名を開示した詳細資料を提示し、具体的な検討に入ってもらいます。
トップ面談と基本合意契約の締結
買い手候補の経営者と直接会い、お互いの経営理念やビジョン、条件面について話し合います。これをトップ面談と言います。
ここで重要なのは、数字の話だけでなく、「従業員を大切にしてくれるか」「地域の伝統を守ってくれるか」といった想いの共有です。
お互いに前向きな合意が得られれば、基本合意契約を締結します。これにより、独占交渉権が付与され、本格的な成約へ向けた準備が進みます。
デューデリジェンスの実施
基本合意後、買い手企業による詳細な調査が行われます。これをデューデリジェンス(買収監査)と言います。
弁護士や公認会計士、不動産鑑定士などが施設に入り、財務、法務、設備、人事などのリスクを徹底的に洗い出します。
売り手側は大量の資料提出やヒアリングへの対応が求められますが、隠し事なく協力することが成約への近道です。
最終契約の締結とクロージング
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な譲渡価格や条件の調整を行います。
双方が合意すれば、最終譲渡契約書(DA)を締結し、M&Aが成立します。
その後、決められた期日に代金の決済(入金)と、株式や資産の引き渡し、役員の変更登記などを行います。これがクロージングです。
クロージングが完了した日が、正式な経営権の移転日となり、その後、従業員や取引先への説明を行い、新体制での運営がスタートします。
廃業ではなくM&Aという選択で事業の継続を

長引く経営不振や後継者不在の問題に直面すると、「もう廃業するしかない」と追い詰められてしまう経営者は少なくありません。
しかし、ここまで解説してきたように、廃業には多大なコストと痛みが伴います。
一方で、M&Aという選択肢には、大切な施設を次世代へ残し、従業員の生活を守り、自身の手元にも資金を残せる可能性があります。
「うちのような古い宿には価値がない」と自身で判断する前に、まずは一度、専門家の視点で評価を受けてみることをおすすめします。
廃業を決断するのは、あらゆる可能性を検討した後でも遅くはありません。
まずはリスクを回避し、事業を継続させるための具体的な手段として、M&Aの検討から始めてみてはいかがでしょうか。
M&Aフォースでは業界に精通した専門チームが、貴社の強みを最大限に引き出すM&A戦略をご提案します。 M&Aに関して、少しでもご興味やご不安がございましたら、まずはお気軽に当社の無料相談をご利用ください。 専門のコンサルタントが、お客様の未来を共に創造するパートナーとして、親身にサポートさせていただきます。
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