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タクシー業界の現状とM&A動向|メリット・デメリットと事例を紹介

タクシー業界の現状とM&A動向|メリット・デメリットと事例を紹介

近年のタクシー業界では、ドライバー不足や燃料・物価の高騰に伴い、多くの企業で厳しい経営状況を強いられています。

そんな状況下でも、タクシー業を継続していく手段として注目されているのがM&Aです。

しかし、M&Aは経営者にとって非常に大きな決断であり、判断に迷う方も多いのではないでしょうか。

本記事ではタクシー業界の現状とM&Aの動向について買収側・売却側の双方の視点で詳しく解説します。

タクシー業界のM&Aについて理解を深め、自社にとっての必要性を改めて確認しましょう。

タクシー業界の現状

タクシー業界は、長年にわたり社会の重要なインフラとして機能してきましたが、近年では様々な課題に直面しています。

主な課題は以下の3つです。

  • ドライバー不足
  • タクシー台数の減少
  • 倒産の急増

具体的に見ていきましょう。

ドライバー不足

【出典】タクシー事故防止対策検討会「タクシー事業の概要や事故の状況等について」

タクシー業界ではドライバー不足が深刻な課題となっています。

特に中小企業ではドライバー不足や高齢化が顕著です。

国土交通省によると、タクシードライバーの数は2023年(令和5年)3月末時点で約22万人と、コロナ禍前に比べて約2割も減少しています。

少子高齢社会の進行により、今後もドライバー不足は加速すると予測されます。

また、他にも長時間労働や年間所得の低さなど、労働環境の悪いイメージがドライバー不足を引き起こす一因です。

タクシー台数の減少

【出典】タクシー事故防止対策検討会「タクシー事業の概要や事故の状況等について」

タクシー台数は2002年(平成14年)の規制緩和後に一時増加したものの、2006年(平成18年)をピークに減少傾向です。

主な要因は以下の4つが挙げられます。

  • ドライバーの高齢化
  • 燃料費の高騰
  • 少子高齢化による乗客数の減少
  • 規制緩和による競争激化

上記の複合的な要因から、収益性の低下を引き起こし、車両数の見直しが進行しています。

さらに、近年ではライドシェアサービスの登場により従来のタクシー需要が分散し、必要な車両数が減少傾向にあります。

倒産の急増

【出典】帝国データバンク「タクシー業」の倒産・休廃業解散動向(2024年)

タクシー業界では倒産・休廃業の件数が急増しています。

特に経営基盤の弱い中小企業を中心に事業継続が困難な傾向にあり、2024年には過去最多件数となっています。

コロナ禍による需要の激減、燃料費の高騰、QRコード決済導入のキャッシュレス手数料負担など、様々な要因が経営を圧迫し、タクシー・ハイヤー事業者の約半数が赤字状態です。

さらに、ドライバー不足により車両の稼働率が低下し、収益減少につながっています。

このように、タクシー業界は非常に厳しい状況に置かれています。

M&Aはタクシー業界のこれらの課題を解決し、業界再編を促進する有効な手段として注目されているのです。

タクシー業界のM&A動向

厳しい経営状況を強いられているタクシー業界では、M&Aが活発化しています。

タクシー業界のM&Aとしては大きく3つの動向がみられます。

  • 設備確保を目的とするM&A
  • DX化を目的とするM&A
  • 経営・雇用維持を目的とするM&A

具体的に解説します。

台数・設備確保を目的とするM&A

タクシー業界ではM&Aによる台数・設備確保の動きが活発化しています。

2009年以降の再規制により、車両増加の条件や法令違反時の罰則が厳しくなったため、既存会社の買収で台数増加を図るためです。

車両や営業所などの設備を新規に用意するには多大なコストと時間がかかります。

一方で、既存のタクシー会社を買収できれば経営資源の効率的な獲得が可能です。

特に財務基盤が不安定な中小企業では、大手資本傘下に入ることで財務基盤を安定させ、設備投資や人材確保に注力できる利点があります。

DX化を目的とするM&A

DX推進を目的としたM&Aも活発化しています。

配車アプリの導入やAIを活用した運行効率化など、デジタル技術の活用が業界の競争力向上には不可欠です。

しかし、自社でDX化を推進するには専門知識やノウハウを持つ人材の確保が課題です。

この課題解決のため、配車アプリを開発するベンチャー企業との資本業務提携や買収などが増加しています。

DX化の推進や電子マネー対応などの設備導入は、顧客満足度の向上やコスト削減が可能です。

タクシー会社はM&Aにより、顧客や社会のニーズに迅速に対応し、サービスクオリティを高める戦略を展開しています。

経営・雇用維持を目的とするM&A

資金繰りに苦しむ中小企業を中心に、事業継続のためM&Aを選択するケースも多くみられます。

知名度の低い中小企業は競争激化により経営が悪化し、資金力のある企業に買収されることで経営改善が期待できます。

買収側にとっては台数増加の利点があり、売却側は社員の雇用維持が実現します。

また、複数のタクシー会社が経営統合することでスケールメリットを活かし、管理コスト削減や営業効率向上など競争力強化につながります。

訪日外国人増加で一部地域では需要が高まっていますが、その恩恵を受けられない中小企業にとって、M&Aは事業存続の有効な選択肢です。

業界再編が進む中、経営基盤強化と雇用維持の両立を目指す動きが活発化しています。

タクシー会社におけるM&Aのメリット

タクシー会社のM&Aでは買収側と売却側の双方にとってメリットをもたらします。

買収側のメリット 売却側のメリット
  • 経営資源(車両・ドライバー)の獲得
  • 事業規模の拡大
  • 営業エリアの拡大と顧客層の多様化
  • 営業優位性の確保
  • 後継者問題の解決
  • 社員の雇用維持
  • 資金獲得
  • 債務解消と個人保証からの解放
  • 経営資源の他事業への集中

それぞれの立場からのメリットについて具体的に見ていきましょう。

買収側のメリット

タクシー会社のM&Aにおける買収側のメリットは以下の通りです。

  • 経営資源(車両・ドライバー)の獲得
  • 事業規模の拡大
  • 営業エリアの拡大と顧客層の多様化
  • 営業優位性の確保

タクシー会社のM&Aでは、新規参入の規制を回避しつつ、業界特有のドライバー不足問題を解消し、車両台数の増加が可能です。

また、既存の営業権や駅前などの優良エリアへの入構権獲得は、新規参入では得られない大きな優位性をもたらします。

さらに、買収先が持つ地域密着型の営業ノウハウや配車システムなどの技術的資産も獲得できるため、規制の多いタクシー業界では、最も効率的な事業拡大手段となっています。

売却側のメリット

タクシー会社のM&Aにおける売却側のメリットは以下の通りです。

  • 後継者問題の解決
  • 社員の雇用維持
  • 資金獲得
  • 債務解消と個人保証からの解放
  • 経営資源の他事業への集中

売却側は、社員の雇用を守り、事業を継続したまま経営者が引退できる有効な選択肢です。

また、まとまった資金を獲得できるだけでなく、大手グループの傘下に入ることで経営の安定化が図れます。

経営が難航したことで蓄積した債務や個人保証からの解放は経営者の大きな負担軽減にもつながります。

さらに、複数事業を持つ企業の場合、これまでタクシー業界に使っていた経営資源を他の事業に充当でき、厳しい経営環境のタクシー業界から円満に撤退する有効な手段です。

タクシー会社におけるM&Aのデメリット

タクシー業界のM&Aは、多くのメリットをもたらす一方で、注意すべきデメリットも存在します。

M&Aを検討する際には、以下のデメリットを十分に理解し、慎重な判断を行うことが重要です。

買収側のデメリット 売却側のデメリット
  • 買収後の統合(PMI)の難しさ
  • 想定外の負債やリスクの顕在化
  • 過大な買収価格
  • ドライバーの離職と顧客離れ
  • 社員の不安と人材流出
  • 企業文化・経営方針の変化
  • 創業者や経営者の影響力低下
  • 希望通りの売却価格にならない可能性

具体的に解説します。

買収側のデメリット

タクシー会社のM&Aにおける買収側のデメリットは以下の通りです。

  • 買収後の統合(PMI)の難しさ
  • 想定外の負債やリスクの顕在化
  • 過大な買収価格
  • ドライバーの離職と顧客離れ

買収後の統合段階では企業文化やシステムの違いによる摩擦が生じやすく、ドライバーの離職につながる可能性があります。

また、タクシー業界は地域密着型のサービス業であるため、経営者の交代で顧客や配車先との関係性が変化し、収益が想定を下回るケースも見られます。

他にも簿外債務や法令違反などが買収後に顕在化するリスクや、過大買収額により投資回収が困難になるケースも少なくありません。

上記のリスクを最小化するには綿密な事前調査と段階的な統合戦略が不可欠です。

売却側のデメリット

タクシー会社のM&Aにおける売却側のデメリットは以下の通りです。

  • 社員の不安と人材流出
  • 企業文化・経営方針の変化
  • 創業者や経営者の影響力低下
  • 希望通りの売却価格にならない可能性

タクシー会社を売却する際のデメリットとして最も懸念されるのは社員への影響です。

買収後の経営方針変更やリストラの可能性から雇用や待遇面への不安が生じ、特に経験豊富なベテランドライバーが流出するリスクがあります。

長年培ってきた地域密着型のサービスや企業文化が変わることで、顧客との関係性や社内の雰囲気が大きく変化する可能性も少なくありません。

また、タクシー業界の経営環境によっては、期待していた売却価格を下回る評価となり、十分な資金を得られないケースもあります。

上記のデメリットを最小化するためには、社員の保護条項を含む慎重な交渉が重要です。

タクシー会社のM&A相場

タクシー会社のM&A相場の一般的な計算方法は年倍法が用いられます。

年倍法は「時価純資産価額に数年分の営業利益を加算することで算出する」方法です。

年倍法の計算式は以下の通りです。

企業価値=時価純資産 + 営業利益数年分(3〜5年程度)

中小企業であれば数億円、大手企業であれば10億円以上が目安ですが、実際の取引価格は様々な要因で変動します。

相場を決定する主な要素としては以下の内容が重視されます。

  • 保有タクシー車両数
  • 営業エリア
  • 収益性
  • 保有資産
  • 負債状況
  • 営業許認可の状況
  • 入構権の有無
  • ドライバーの質と確保状況
  • 売上高、利益率、キャッシュフローなどの財務指標

また、M&A費用には、買収金額に加えて仲介会社や専門家への報酬、デューデリジェンス費用、契約書作成費用などが含まれます。

上記の費用は取引規模によって変動し、通常は成約額の数%から10%程度が相場となっています。

タクシー会社のM&Aの成功ポイント

タクシー会社のM&Aを成功させるためには、事前の準備と戦略が不可欠です。

M&Aを成功に導くための重要なポイントは以下の3つを抑えることが重要です。

  • M&A先の企業について入念にリサーチする
  • 社員・顧客との関係性を維持できるよう努める
  • 適切なM&A会社に相談する

具体的に解説します。

M&A先の企業について入念にリサーチをする

タクシー業界のM&Aでは、対象企業の財務状況だけでなく、タクシー業界特有の要素を含めた詳細な調査が不可欠です。

買収側は車両台数や入構権の有無、営業エリアの将来性などを精査するとともに、法的な許認可状況やコンプライアンス体制も確認しましょう。

特に重要なのは負債状況や係争中の訴訟、労務問題の有無です。

売却側も自社の強みを客観的に分析し、企業価値を適正に評価できる資料を整備しておくと、交渉を有利に進められます。

双方が第三者の専門家によるデューデリジェンスを実施することで、M&A後の予期せぬトラブルを防止し、スムーズな統合が実現します。

社員・顧客との関係性を維持できるよう努める

タクシー業界では「人」が最も重要な資産です。

買収側は、社員に対してM&Aの目的や今後の事業計画を伝えることで不安を取り除き、離職を防ぎましょう。

売却側も早期から適切な情報提供を行い、社員の動揺を最小限に抑える配慮が必要です。

顧客関係においては、M&A以降も変わらぬサービスを提供していくことを丁寧にアナウンスし、信頼関係の維持に努めましょう。

統合後もサービス品質を維持するための具体的な計画を事前に策定しておくことが成功のポイントです。

適切なM&A会社に相談する

適切なM&A仲介会社の選定は、M&Aにおける重要なポイントです。

買収側は業界の相場観や評価ポイントを熟知した専門家のサポートを受けることで、適正価格での買収と効果的な統合プランの立案が可能です。

売却側も、適切な仲介会社が入ることで、複数の買収候補との交渉機会を得られ、より有利な条件を引き出せる可能性が高まります。

良質な仲介会社は、M&A戦略の策定から相手企業の選定、交渉・契約サポート、デューデリジェンス、そしてPMI(M&A後の統合)まで一貫したサポートを提供します。

選定の際は、タクシー業界での実績、提案内容の具体性、料金体系の透明性などを重視し、中長期的な視点で事業の発展に貢献できるパートナーを選びましょう。

タクシー業界のM&A事例

本章ではタクシー会社で実際に行われたM&A事例についてご紹介します。

  • 大和自動車交通、旅客自動車運送事業などの十全交通を買収
  • つばめタクシー株式会社と長電タクシーの経営統合

具体的に見ていきましょう。

大和自動車交通、旅客自動車運送事業などの十全交通を買収

2024年11月13日、大和自動車交通は十全交通株式会社の全株式を取得し子会社化することを決議しました。

主な目的は東京都西部における営業拠点の強化です。

十全交通は1989年設立の旅客自動車運送事業を営む会社であり、直近では営業利益は赤字となっていました。

大和自動車交通は株式会社ミドリから、十全交通の全株式と不動産も合わせて取得し、既存の多摩地区拠点との業務統合によるコスト削減や資金運用効率向上などのシナジー効果を目指しています。

株式譲渡実行は2024年12月2日に行われています。

【参考】大和自動車交通株式会社「十全交通株式会社株式の取得(子会社化)に関するお知らせ 」

つばめタクシー株式会社と長電タクシーの経営統合

2023年6月1日、つばめタクシー株式会社と長電タクシー株式会社が経営統合し、「つばめ長電タクシー株式会社」として新たにスタートしました。

両社は長野市内でタクシー事業を展開していましたが、新型コロナウイルスの流行や燃料費の高騰により経営状況が悪化していました。

統合の主な目的は、配車の効率化による収益拡大と経費削減です。

また、つばめ長電タクシー株式会社の藤本豊一社長は、今後インバウンド需要の取り込みも視野に入れていると述べています。

地方都市における同業者統合の事例として、業界内で注目されています。

【参考】つばめ長電タクシー株式会社「経営統合のご挨拶」

M&Aでタクシー業界の課題を解消しよう

タクシー業界は深刻なドライバー不足、台数減少、倒産急増といった課題に直面しています。

厳しい状況を強いられるタクシー会社において、M&Aは課題を解消するための有効手段の1つです。

M&Aは経営者にとって非常に大きな決断ではありますが、買収側は経営資源の効率的な獲得と事業規模拡大を実現でき、売却側は社員の雇用維持と事業継続が可能です

M&Aを戦略的に活用し、タクシー業界全体の持続的発展を目指しましょう。

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