M&A仲介会社とは?FAとの違いや選び方・メリットを徹底解説
M&A仲介会社とは、会社を売りたい「売り手(譲渡企業)」と買いたい「買い手(譲受企業)」の間に入り、中立的な立場でM&A(企業の合併・買収)を成立に導く専門会社です。
事業承継や成長戦略の一環としてM&Aを検討されている方にとって、M&A仲介会社は重要なパートナーとなり得ます。
しかし、「具体的にどのような役割を担うのか?」「手数料はどれくらいかかるのか?」「何を基準に選べば良いのか?」など、多くの疑問をお持ちではないでしょうか。
この記事では、M&A仲介会社の基本的な知識から、FA(フィナンシャルアドバイザー)との違い、具体的な業務内容、手数料体系、利用するメリット・デメリットを解説します。
また、自社に最適な仲介会社を選ぶためのポイントや注意点に至るまで売り手側の視点に立って網羅的に解説します。
M&A仲介会社とは?
M&A仲介会社は、企業の合併・買収において売り手企業と買い手企業の間に立ち、中立的な立場でM&Aの成立をサポートする専門会社です。双方の企業に対して客観的な視点からアドバイスを提供し、最適なマッチングを実現します。
特に中小企業のM&Aにおいて、M&A仲介会社の存在は欠かせません。なぜなら、M&Aには専門的な知識と経験が必要であり、経営者が単独で進めるには現実的ではないからです。
仲介会社は豊富な実績とネットワークを活用し、企業価値の算定から契約書作成まで、M&Aプロセス全体を包括的にサポートします。M&A仲介会社の最大の特徴は、売り手と買い手の双方と契約を結び、中立的な立場を保つことです。
これにより、どちらか一方の利益を優先するのではなく、双方にとって最適な条件でのM&A成立を目指します。日本では高齢化により事業承継問題が深刻化しており、M&A仲介会社の重要性はますます高まっています。
事業承継型M&Aとは?メリット・デメリット・成功のポイントを解説
M&A仲介会社の種類
M&A仲介会社は、その規模や特徴によっていくつかの種類に分類されます。自社のニーズに最適な仲介会社を選ぶために、各種類の特徴を理解することが重要です。
大手・上場企業やそのグループ会社のM&A仲介会社
株式を上場しているM&A仲介会社や大手企業のグループ会社など、強固な経営基盤と高い知名度を持つ会社群です。
豊富な資金力と全国規模の広範なネットワークが特徴で、高い信頼性があります。金融機関や会計事務所とも緊密に連携しており、業種を問わず大規模なM&A案件に対応できる総合力を持っています。
中小企業向けM&A仲介会社
主に中小企業のM&Aや事業承継を専門的に取り扱う仲介会社です。
近年、中小企業向けのM&Aは増加傾向にあり、この分野を得意とする仲介会社も増えています。全国に拠点を展開する会社から、特定の地域に根差した会社まで形態はさまざまです。
大手出身の実績豊富なコンサルタントが在籍していることも多く、経営者の状況に合わせた柔軟できめ細やかなサポートを提供します。
着手金が不要な成功報酬型の料金体系を採用している会社も多く、利用しやすい点もメリットです。
業界特化型M&A仲介会社
IT、医療・介護、建設、不動産など、特定の業界に絞って専門性の高いサービスを提供する仲介会社です。
業界特有のビジネスモデルや法規制、商慣習に精通しているため、専門的な知見に基づく精度の高いマッチングやアドバイスが期待できます。
その業界のネットワークを活かし、他では見つからないような最適な相手先を見つけ出せる可能性もあります。
種類 | 特徴 | 主な対象企業 |
大手・上場/大手グループ会社 | ・豊富な実績と全国ネットワーク
・高い信頼性と資金力 |
大規模なM&Aを検討する企業、総合的なサポートを求める企業 |
中小企業向け仲介会社 | ・中小企業のM&Aや事業承継に特化
・経営者に寄り添った柔軟なサポート |
後継者問題などを抱え、事業承継を検討している中小企業 |
業界特化型仲介会社 | ・特定業界への深い知見と専門性
・業界ネットワークを活かしたマッチング |
特定の業界内でM&Aを検討している企業 |
M&A仲介会社の主な役割と業務内容
M&A仲介会社は、M&Aプロセス全体を通じて多様な業務を担い、売り手・買い手双方にとって最適な取引成立を目指します。主な役割は以下の通りです。
- 企業価値評価や売却価格の算定
- 買い手企業とのマッチング・候補先選定
- 交渉支援や条件調整
- 契約書作成やデューデリジェンス支援
- クロージングまでの総合的なサポート
- PMI(統合後の支援)への対応
M&A仲介会社は、相談からM&A成立後の統合プロセスまで、多岐にわたる専門的なサポートを提供します。
企業価値評価と売却価格の算定
M&A仲介会社は、売却対象企業の価値を客観的に評価し、適正な売却価格を算定します。企業価値評価には財務諸表の分析、将来収益の予測、市場動向の調査などが含まれます。
売り手は根拠のある価格設定が可能になり、買い手との交渉を有利に進めやすくなります。また、第三者の専門的な視点が加わることで、感情的な価格設定を避けられます。
買い手企業とのマッチング・候補先選定
M&A仲介会社は、豊富なネットワークや独自のデータベースを活用し、売り手企業にとって最適な買い手候補を選定します。
例えば、業種や規模、地域、経営方針など多角的な観点から候補先をリストアップし、秘密保持契約のもとでマッチングを進めます。
適切なマッチングがM&Aの成功率を高める重要な要素です。売り手は自社の強みを理解し、成長を期待できる相手と出会う機会が得られます。
交渉支援と条件調整
交渉フェーズでは、M&A仲介会社が売り手と買い手の間に立ち、条件調整や意見のすり合わせを行います。
価格や支払い方法、雇用継続、知的財産権の取り扱いなど、複雑な条件交渉を中立的な立場から支援します。
双方の主張が感情的にならず、合理的な合意形成が可能です。交渉過程で生じる課題やトラブルにも迅速に対応できるため、安心して取引を進められます。
契約書作成とデューデリジェンス支援
M&Aの最終段階では、契約書の作成やデューデリジェンス(企業調査)の実施が必要です。
M&A仲介会社は、法務・会計の専門家と連携し、契約内容のチェックやリスクの洗い出しを行います。
売り手は不利な契約条件や見落としを防ぐことが可能です。また、デューデリジェンスの過程では、財務・法務・税務面の詳細な調査が行われ、取引の透明性と安全性が確保されます。
クロージングまでの総合的なサポート
M&A仲介会社は、最終契約の締結からクロージング(取引完了)まで一貫してサポートします。
クロージングまでには、各種書類の提出や資金決済、登記手続きなど多くの実務が発生します。M&A仲介会社の専門的なサポートにより、取引が円滑に進み、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
クロージング後も必要に応じてフォローアップを行い、取引の円満な完了を目指します。
PMI(統合後の支援)への対応
M&Aは成立がゴールではありません。M&A成立後のPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)もM&A仲介会社が対応する場合があります。
PMIは、経営統合や人材配置、システム統合など、M&A後の企業運営に関わる重要なフェーズです。
M&A仲介会社がPMIまでサポートすることで、統合後の混乱を最小限に抑え、シナジー効果を最大化できます。PMI支援の有無は、M&A仲介会社を選ぶ際の重要な判断材料となります。
M&Aの相談先
M&Aを検討する際の相談先は、M&A仲介会社だけではありません。
M&Aの相談先には、主に以下の3種類が挙げられます。
- M&A仲介会社
- FA(ファイナンシャルアドバイザー)
- 金融機関・会計事務所
それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合った相談先を選ぶことが大切です。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、売り手と買い手の双方に対して中立的な立場からアドバイスやマッチングを行う専門機関です。
幅広い業種・規模の案件に対応可能であり、初めてM&Aを検討する企業にも利用しやすい点が特徴です。
M&A仲介会社に相談することで、M&Aの全体像や流れ、必要な準備事項を明確にできます。特に、候補先の選定や交渉支援など、実務面でのサポートを重視する場合に適しています。
FA(ファイナンシャルアドバイザー)
FAは、売り手または買い手のどちらか一方の利益を最大化するために助言や交渉支援を行う専門家です。
FAは通常、片手契約であり、依頼主の立場に立った戦略的な提案や条件交渉を行います。
大規模案件や複雑な条件交渉が想定される場合、または自社の利益を最優先したい場合に、FAへの相談が有効です。
FAを活用することで、専門的かつ戦略的なM&A推進が期待できます。
金融機関・会計事務所
銀行や証券会社、会計事務所、公認会計士などもM&Aの相談先です。これらの機関は、財務や税務の専門知識を活かし、M&A全体のリスク管理や資金調達、税務戦略の立案などに強みを持っています。
特に、既存の取引先や信頼できる専門家ネットワークを活用したい場合に最適です。金融機関や会計事務所を活用することで、M&Aに伴う財務・税務リスクを最小限に抑えられます。
相談先 | 特徴 | メリット | デメリット |
M&A仲介会社 | 売り手と買い手の間に立ち、中立的な立場で交渉を支援 | 豊富なマッチング実績、幅広いネットワーク | 利益相反のリスク、手数料が高額になる場合がある |
FA(ファイナンシャルアドバイザー) | 売り手か買い手、どちらか一方の専属アドバイザーとして利益最大化を目指す | 自社の利益を最優先にした交渉が可能 | 相手方との直接交渉が基本となるため、交渉が難航する場合がある |
金融機関・会計事務所 | 普段から取引のある銀行や顧問会計事務所に相談 | 経営状況を深く理解しており、相談しやすい | M&Aの専門性やネットワークが限定的な場合がある |
M&A仲介会社とFAの違い
M&Aの専門家としてよく比較されるのが「M&A仲介会社」と「FA(ファイナンシャルアドバイザー)」です。
両者は似ているようで、その立場と役割には明確な違いがあります。
以下では、M&A仲介会社とFAの具体的な違いについて詳しく解説していきます。
契約形態の違い(両手取引vs片手取引)
M&A仲介会社とFAの最も重要な違いは、契約形態にあります。この違いがサービスの性質と報酬構造を決定する根本的な要因です。
両手取引では、M&A仲介会社が売り手と買い手の双方から手数料を受け取ります。これにより、どちらか一方に偏ることなく、バランスの取れた条件での成約を目指します。中小企業のM&Aでは、この方式が一般的です。
片手取引では、FAは依頼企業からのみ報酬を受け取るため、その企業の利益を最優先に行動します。大企業や戦略的に重要なM&Aでは、この方式が選ばれることが多くあります。利益相反のリスクが低い一方で、手数料が高額になる傾向があります。
項目 | M&A仲介会社 | FA |
契約相手 | 売り手・買い手双方 | いずれか一方のみ |
取引形態 | 両手取引 | 片手取引 |
立ち位置 | 中立的仲介者 | 依頼企業の代理人 |
報酬 | 双方から受領 | 依頼企業からのみ |
報酬体系と費用の違い
M&A仲介会社とFAでは、報酬体系や費用にも違いがあります。M&A仲介会社は、着手金や月額報酬、成功報酬などを両者から受け取るケースが多いです。
FAは、依頼主からのみ報酬を受け取り、成功報酬の割合が高い傾向があります。また、FAは案件規模や複雑さに応じて、個別に報酬体系を設定する場合もあります。
費用面での違いを理解し、予算や目的に合った選択が重要です。
項目 | M&A仲介会社 | FA |
着手金 | 発生する場合が多い | 発生する場合が多い |
月額報酬 | 発生することがある | 発生することがある |
成功報酬 | 売り手・買い手双方から | 依頼主のみから |
報酬率 | 一定の基準あり | 案件ごとに異なる |
サービス内容と専門性の違い
M&A仲介会社は、M&Aプロセス全体を一貫してサポートし、マッチングから交渉、契約書作成、クロージングまで対応します。
一方のFAは、依頼主の利益を最大化するために、戦略立案や条件交渉、デューデリジェンス支援など、より専門的なアドバイスを提供します。
特に大規模案件や複雑な取引では、FAの専門性が活きる場面が多いです。
自社のニーズや案件の性質に応じて、どちらのサービスが適しているか判断しましょう。
売り手企業にとってのメリット・デメリット比較
M&A仲介会社とFAのどちらを選ぶかは、売り手企業の目的や状況によって異なります。以下の表で主なメリット・デメリットを紹介します。
M&A仲介会社 | FA(ファイナンシャルアドバイザー) | |
メリット | ・幅広い候補先からマッチングが可能
・交渉が円滑に進みやすい ・成約までのスピードが速い傾向 |
・自社の利益を徹底的に追求できる
・より有利な条件での交渉が期待できる |
デメリット | ・利益相反のリスクがゼロではない
・相手方の意向も尊重する必要がある |
・相手方との交渉が難航する可能性がある
・マッチングは自社で行う必要がある場合も |
このように、M&A仲介会社とFAにはそれぞれ特徴があります。自社の目的や案件内容に合わせて、最適なパートナーを選定しましょう。
M&A仲介の費用体系と手数料の種類
M&A仲介会社を利用する際には、費用体系や手数料の種類を事前に把握しておくことが重要です。費用の内訳や発生タイミングを理解することで、予算計画や比較検討がしやすくなります。
ここでは、M&A仲介の主な手数料の種類とその特徴について解説します。
着手金・月額報酬・仲介報酬の詳細
M&A仲介会社の費用には、以下のような種類があります。
- 相談料:多くのM&A仲介会社では無料ですが、有料の場合もあります。
- 着手金:アドバイザリー契約時に支払う費用です。情報収集や資料作成などの初期費用に充てられます。最近は着手金無料の会社も増えています。
- 月額報酬(リテイナーフィー): 契約期間中、毎月発生する顧問料のような費用です。着手金と同様に、無料の会社もあります。
- 中間報酬:基本合意契約の締結など、M&Aプロセスが一定段階に進んだ時点で支払う費用です。
- 成功報酬:M&Aが最終的に成立した際に支払う最も大きな費用です。
これらの費用は、M&A仲介会社ごとに設定が異なるため、事前に確認しておくと安心です。
成功報酬の仕組みと計算方法
成功報酬は、M&Aが成約した際に支払う報酬で、取引金額に一定の料率を掛けて算出されます。一般的には「レーマン方式」が用いられ、取引額が大きくなるほど料率が低くなります。
具体的な計算方法や料率はM&A仲介会社によって異なりますが、一般的には面談時に提携仲介契約書を用いて確認します。
レーマン方式 | |
譲渡企業の時価純資産額(営業権を含む) | 手数料率(例) |
〜2億円以下 | 2,000万円 |
2億円超〜5億円以下 | 5% |
5億円超~10億円以下 | 4% |
10億円超~50億円以下 | 3% |
50億円超~100億円以下 | 2% |
100億円超 | 1% |
デューデリジェンス費用とその他実費
M&Aプロセスでは、買い手企業が売り手企業の実態を詳細に調査する「デューデリジェンス(DD)」が行われます。この際に発生する費用も考慮しなければなりません。
デューデリジェンス費用は、調査内容や規模によって大きく異なりますが、一般的には数十万円〜数百万円程度が相場です。法務、財務、税務、ビジネスなど、各分野の専門家が関与するため、調査範囲が広いほど費用も高額になります。
また、その他の実費としては、交通費、資料作成費、印紙代、登記費用などが発生します。これらは案件ごとに異なるため、面談時に提携仲介契約書を用いて説明する際などに詳細を確認することが大切です。
M&A仲介手数料の相場と算出方法
M&A仲介手数料は、取引規模やM&A仲介会社の方針によって異なりますが、一般的な算出方法と業界相場を知っておくことで、予算計画やM&A仲介会社選びの参考になります。
特に「レーマン方式」は多くのM&A仲介会社で採用されており、手数料の比較検討に役立ちます。
ここでは、レーマン方式による計算例、最低報酬額の設定、取引規模別の手数料相場について解説します。
レーマン方式による成功報酬の計算例
レーマン方式は、取引金額の区分ごとに異なる料率を適用し、合計額を算出する方法です。この方式は透明性が高く、手数料の計算が明確なため、多くのM&A仲介会社で採用されています。
【計算例】 譲渡企業の営業権を含む時価総資産額が6億円の場合:
2億円以下=2,000万円
(5億円ー2億円)×5%=1,500万円
(6億円ー5億円)×4%=400万円
合計:3,900万円
このように、各区分ごとに料率を掛け合わせて合計することで、手数料が決まります。M&A仲介会社によっては、独自の料率や計算方法を採用している場合もあるため、契約前に必ず確認しましょう。
最低報酬額の設定と業界相場
多くのM&A仲介会社では、成功報酬に「最低報酬額」を設定しています。これは、取引金額が小さい場合でも一定額の報酬を確保するためのものです。最低報酬額の相場例は以下の通りです。
- 中小企業向けM&A仲介会社:最低報酬額500万円〜2,000万円程度
- 大手M&A仲介会社やFA:最低報酬額1,000万円〜1億円程度
最低報酬額が設定されている場合、実際の取引金額に基づく計算額がこれを下回る場合でも、最低報酬額が適用されます。
特に小規模案件では、手数料負担が相対的に高くなる可能性があるため、事前に確認しておくことが大切です。
M&Aの仲介手数料の相場|安く抑えるための3つのポイントと計算方法を解説
M&A仲介会社を利用するメリット
M&A仲介会社を活用することで、企業は多くのメリットを享受できます。特に、専門的なノウハウやネットワークを活かしたサポートは、経営者が単独でM&Aを進める場合には得られない大きな価値です。
ここでは、M&A仲介会社を利用する主なメリットについて解説します。
幅広いネットワークから最適な相手候補を見つけやすい
M&A仲介会社は、業種や地域を問わず、独自の広範なネットワークを保有しています。このネットワークを活用することで、自社だけでは接触できないような、思わぬ優良企業やシナジー効果の高い企業と出会えることがメリットです。
また、売り手企業の強みや文化を理解したうえで、最適なパートナー候補をリストアップしてくれるため、効率的かつ効果的なマッチングが期待できます。
これは、M&Aの成功に向けた第一歩として、非常に大きなメリットです。
M&Aプロセスの専門的なサポートを受けられる
M&Aのプロセスには、企業価値評価、法務、税務、会計といった高度な専門知識が不可欠です。M&A仲介会社には、これらの分野に精通した専門家が在籍しているか、または提携する専門家ネットワークを持っています。
複雑な契約書の作成やリスクを洗い出すデューデリジェンスへの対応など、各段階で的確なアドバイスとサポートを受けられます。法的なトラブルや予期せぬリスクを回避し、安心して取引を進めることが可能です。
成約までにかかる時間や労力を軽減できる
M&Aのプロセスは、相手探しから最終契約まで、通常数カ月から1年以上を要することもある長期的なプロジェクトです。この間、経営者は煩雑な手続きや交渉に多くの時間と労力を割かれます。
M&A仲介会社に依頼すれば、候補先の選定や資料作成、交渉の調整といった大部分の業務を代行してくれます。その結果、経営者は本来注力すべき事業運営に集中でき、企業価値を維持・向上させながらM&Aを進めるなど、理想的な状況を作り出せます。
M&Aにおける過不足のない取り決めが可能になる
当事者同士での直接交渉では、感情的な対立が生まれたり、専門知識の不足から重要な取り決めが漏れてしまったりするリスクがあります。
中立的な立場のM&A仲介会社が間に入ることで、客観的な視点から冷静な交渉が促進されます。
また、専門家が契約内容を精査するため、従業員の雇用条件や偶発債務の取り扱いなど、将来のトラブルにつながりかねない細かな点まで過不足なく契約に盛り込むことが可能です。
これは、M&A後の円滑な事業統合(PMI)においても重要な基盤となります。
M&A仲介会社を利用するデメリットと注意すべきポイント
M&A仲介会社は多くのメリットを提供する一方で、利用にあたっては注意すべき点や潜在的なデメリットも存在します。
特に、高額な手数料やM&A仲介会社との相性、そして構造的に発生しうる利益相反のリスクについては、事前に深く理解しておく必要があります。
ここでは、M&A仲介会社を利用する際の具体的な注意点について解説します。
高額な手数料が発生する可能性がある
M&A仲介会社を利用する最大のデメリットは、費用面です。特に成功報酬は、レーマン方式で算出されるため、譲渡価格によっては数千万円から数億円と高額になるケースも少なくありません。
また、完全成功報酬型でない場合は、M&Aが成約しなくても着手金や月額報酬が発生します。これらの費用が経営を圧迫しないよう、契約前に手数料体系を詳細に確認し、複数の会社を比較検討することが不可欠です。
費用対効果を冷静に見極め、納得感のある契約を結ぶ姿勢が求められます。
M&A仲介会社の力量や相性に左右されることがある
M&Aの成否は、担当するM&A仲介会社やコンサルタントの力量、そして自社との相性に大きく左右されます。
経験豊富で優秀な担当者であれば、円滑な交渉と最適なマッチングが期待できますが、経験が浅かったり、自社の業界への理解が乏しかったりする担当者の場合、満足のいく結果が得られない可能性があります。
また、コミュニケーションの取りやすさや価値観といった「相性」も重要です。選定段階で複数の担当者と面談し、信頼して任せられるパートナーかどうかを慎重に見極める必要があります。
利益相反が発生するリスクがある
M&A仲介会社は、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る「両手取引」が基本です。この形態は、構造的に「利益相反」のリスクをはらんでいます。
例えば、M&A仲介会社が自社の手数料を最大化するために、本来よりも安い価格での売却を促したり、交渉を急がせたりする可能性がゼロではありません。
中立的な立場であることが求められる一方で、こうしたリスクが存在することも念頭に置くべきです。自社の利益を最優先に考えてくれる誠実なM&A仲介会社か、その姿勢を見極めることが重要です。
失敗しないM&A仲介会社の選び方
M&Aの成功は、パートナーとなるM&A仲介会社選びで9割決まると言っても過言ではありません。
数多くのM&A仲介会社の中から、自社にとって最適な一社を見つけ出すためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
実績や専門性はもちろん、手数料体系の透明性や担当者との相性まで、多角的な視点から評価し、総合的に判断することが失敗を避けるための道筋です。
ここでは、後悔しないための具体的な選び方のポイントを8つに絞って解説します。
ポイント1:豊富な実績と経験、専門性
まず確認すべきは、M&A仲介会社としての実績の豊富さです。過去にどれくらいの数のM&Aを成約させてきたか、その実績は自社の業界や規模と関連性があるかを確認しましょう。
成約実績が多い会社は、それだけ多くのノウハウを蓄積しており、さまざまなトラブルへの対応力も高いと期待できます。
会社のWebサイトで公開されている事例を確認したり、面談時に具体的な実績について質問したりすることが有効です。
専門性の高いアドバイスが受けられるかどうかは、取引の質を大きく左右します。
ポイント2:得意とする業種・地域・取引規模
M&A仲介会社には、それぞれ得意とする分野があります。特定の業種に特化した会社、特定の地域に強固なネットワークを持つ会社、あるいは中小企業のスモールM&Aを得意とする会社など、その特徴はさまざまです。
自社の業種や事業規模、希望する相手先の地域などを考慮し、その分野で強みを持つM&A仲介会社を選ぶことが、良いマッチングにつながる確率を高めます。
不得意な分野の案件を依頼しても、効果的なサポートは期待できません。
ポイント3:広範なネットワークとマッチング力
最適な相手候補を見つけ出す「マッチング力」は、M&A仲介会社の生命線です。どれだけ広範で質の高い買い手候補のネットワークを持っているかが重要になります。
大手M&A仲介会社は全国的なネットワークに強みを持ち、ブティック型のM&A仲介会社は特定の業界内で深いネットワークを築いている場合があります。
自社の希望する相手企業のプロファイル(業種、規模、地域など)を伝え、どのような候補先を紹介できそうか、具体的なアプローチ方法について確認してみましょう。
ポイント4:明確で納得感のある手数料体系
手数料に関するトラブルは、M&Aにおいて最も避けたい事態の一つです。手数料体系が明確で、わかりやすく説明してくれるM&A仲介会社を選びましょう。
成功報酬の算出基準(譲渡価格か移動総資産か)、着手金や中間金の有無、最低報酬額の設定などを契約前に詳細に確認し、書面で明文化してもらうことが重要です。
面接時に用いられる提携仲介契約書を比較検討することで、相場観を養い、不当に高額な請求を避けられます。納得感を持って契約できるかどうかが判断基準です。
ポイント5:法務・会計など専門家の有無と連携体制
M&Aには法務、税務、会計など、高度な専門知識が不可欠です。
社内に弁護士や公認会計士などの専門家が在籍しているか、あるいは信頼できる外部の専門家と強固な連携体制を築いているかを確認しましょう。
デューデリジェンスや複雑な契約交渉の場面で、専門家とスムーズに連携できる体制が整っていることは、リスク管理の観点から非常に重要です。
ワンストップで対応できる体制は、経営者の負担を大きく軽減します。
ポイント6:担当コンサルタントの質と相性
最終的にM&Aのプロセスを並走するのは、一人の担当コンサルタントです。会社の看板だけでなく、実際に担当してくれる個人の質と相性が極めて重要になります。
担当者のM&Aに関する知識や経験、業界への理解度はもちろんのこと、親身に相談に乗ってくれるか、コミュニケーションは円滑か、といった人間性も見極めましょう。
企業の未来を託すパートナーとして、信頼関係を築ける相手かどうかを、自身の目で確かめることが大切です。
ポイント7:情報管理体制の徹底度合い
M&Aの情報は、企業の根幹に関わるトップシークレットです。情報が外部に漏洩すれば、従業員の動揺や取引先との関係悪化を招き、企業価値を大きく損なう恐れがあります。
そのため、M&A仲介会社の秘密保持を含む情報管理体制が徹底されているかは、必ず確認すべきポイントです。
秘密保持契約(NDA)の締結はもちろん、情報の取り扱いに関する具体的な社内ルールやセキュリティ対策について質問し、信頼できる会社かどうかを判断しましょう。
ポイント8:PMI(M&A後の統合プロセス)への対応
M&Aは、契約が成立すれば終わりではありません。むしろ、その後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)こそが、M&Aの成否を分ける最も重要なフェーズです。
買い手企業との組織文化の融合や業務システムの統合、人事制度のすり合わせなど、多くの課題が発生します。
M&A仲介会社がPMIフェーズにおいてもサポートを提供しているか、あるいは専門のコンサルティング会社と連携しているかを確認しましょう。
M&A後のスムーズな事業運営が可能になります。
M&A仲介会社を選ぶ際の具体的な注意点
M&A仲介会社選びでは、前述の選定ポイントに加えて、実際の選定プロセスにおける具体的な注意点があります。
選定プロセスでは、複数社の比較検討、契約内容の詳細確認、率直なコミュニケーション、過去事例の検証が重要です。
以下では、M&A仲介会社を選ぶ際の各注意点について詳しく解説します。
複数の仲介会社を比較検討する
M&A仲介会社選びでは、必ず複数の会社を比較検討することが重要です。
1社だけの提案で決定すると、サービス内容や手数料の妥当性を判断できず、最適な選択ができない可能性があります。
比較検討の手順:
- 3〜5社程度のM&A仲介会社に相談
- 各社の提案内容と手数料を比較
- 担当者との相性や信頼性を評価
- 実績や専門性を詳細に確認
比較検討する際は、単純に手数料の安さだけで判断せず、提供されるサービスの質、実績、専門性、担当者の能力などを総合的に評価しましょう。
また、各社の強みや特徴を理解し、自社のニーズに最も適したM&A仲介会社を選択することが重要です。
時間をかけて慎重に比較検討することで、後悔のない選択ができます。
契約内容を細部まで確認する
M&A仲介契約は複雑な内容を含むため、契約書の細部まで慎重に確認することが不可欠です。
曖昧な条項や理解できない内容があれば、必ず説明を求め、納得してから契約を締結しましょう。
契約書の重要確認項目:
- 手数料の詳細と支払い条件
- 専任契約か非専任契約かの区別
- 契約期間と解約条件
- 秘密保持に関する条項
- 損害賠償や責任制限に関する条項
特に、専任契約の場合は他のM&A仲介会社に依頼できなくなるため、契約期間や解約条件を十分に確認する必要があります。
また、手数料以外に発生する可能性のある費用についても明確にしておきましょう。不明な点があれば、弁護士などの専門家に相談することも検討すべきです。
自社の希望や懸念を率直に伝える
M&A仲介会社との関係を成功させるためには、自社の希望や懸念を率直に伝えることが重要です。遠慮や誤解があると、期待と異なる結果になる可能性があります。
率直に伝えるべき内容:
- M&Aの目的と優先順位
- 希望する買い手企業の条件
- 絶対に譲れない条件
- 心配事や不安な点
- 予算や時間的な制約
M&A仲介会社は、売り手企業の真のニーズを理解することで、より適切な提案とサポートを提供できます。また、懸念事項を早期に共有することで、問題の予防や早期解決が可能です。
過去のM&A事例や顧客の声を確認する
M&A仲介会社の実力を正確に把握するために、過去のM&A事例や顧客の声を確認することが重要です。これにより、実際のサービス品質や顧客満足度を客観的に評価できます。
確認すべき情報:
- 具体的な成約事例とその詳細
- 顧客からの推薦状や評価
- 業界内での評判や口コミ
- 同業他社からの評価
M&A仲介会社に対して、自社と類似した案件での事例について説明を求めましょう。また、可能であれば過去の顧客に直接話を聞く機会を設けてもらうことも有効です。
ただし、守秘義務の関係で詳細な情報が得られない場合もあるため、公開されている情報や業界内の評判も参考にしましょう。
信頼できるM&A仲介会社と共に、企業の未来を拓こう
M&A仲介会社は、企業の重要な転換点であるM&Aを成功に導く重要なパートナーです。
適切なM&A仲介会社を選択することで、理想的な買い手企業との出会い、公正な企業価値評価、円滑な交渉、そして満足のいく条件での成約が実現できます。
M&A仲介会社を選定する際には実績と専門性、得意分野、ネットワーク、手数料体系、専門家連携、担当者の質、情報管理体制、PMI対応など、多角的な視点から総合的に評価することが重要です。
また、複数社の比較検討、契約内容の詳細確認、率直なコミュニケーション、過去事例の検証を通じて、信頼できるパートナーを見つけましょう。
M&Aは企業の未来を大きく左右する重要な決断です。信頼できるM&A仲介会社と共に、企業の持続的な成長と発展を実現し、新たな未来への扉を開いてください。