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工場売却はM&Aでも可能!売却方法と手続き手順・必要書類を解説

工場売却はM&Aでも可能!売却方法と手続き手順・必要書類を解説

工場をM&Aで売却する手法は、製造業における後継者不在問題や経営資源の再編加速を背景に、近年注目を集めています。

従来は不採算事業に対し、工場の閉鎖や不動産としての単独売却などで対策することが一般的でした。しかしM&Aで工場を売却することで、事業全体を承継でき、従業員の雇用や取引先との関係も維持できます。

本記事では、工場の売却方法とM&Aで売却する手続き手順、必要書類、具体的なスキームと注意点を解説します。

工場を売却する2つの方法

工場を売却する2つの方法

工場の売却方法には、大きく分けて「不動産として工場を売却する」「M&Aで事業ごと売却する」の2つの選択肢があります。それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なるため、自社の状況や売却目的に合った最適な方法を選ぶことが大切です。

不動産として工場を売却

不動産としての工場売却は、工場の建物および付随する土地を不動産として売却する方法です。

事業からの撤退を決定している場合や、資産を現金化したい場合に選択されることが多い手法で、基本的に、工場内の機械設備や従業員、取引先との関係は買い手に引き継がれません。

工場と土地を一緒に売却するパターンと、工場を解体して更地で売却するパターンとがあり、後者は解体工事のコストが発生します。なお、事業用不動産の売却には多方面の専門知識が必要なため、以下のいずれかの方法で不動産会社に依頼することが一般的です。

  • 仲介会社に売却を依頼する
  • 不動産買取業者に直接売却する
  • 買取保証付きで仲介会社に依頼する

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M&Aで事業ごと売却

2つ目の方法は、M&A(合併・買収)によって、事業全体または工場を事業の一部として売却する方法です。工場が持つ生産機能、技術、ノウハウ、従業員、取引先との関係性、ブランドなどの無形資産も含めて他社へ譲渡します。

M&Aによる工場売却は以下の目的で実施されることが一般的です。

  • 事業の買収でシナジー効果を得る
  • 後継者問題を解消する
  • 買い手が対象企業の不動産を取得する

買い手企業とのシナジー効果(相乗効果)が期待できる場合は、不動産としての価値に加えて事業の将来性も評価されるため、高値で売却できる見込みがあります。M&Aによる工場売却は、事業再編や後継者問題など、経営課題の解決にも活用されています。

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売却先が見つかりやすい工場と敷地の特徴

売却先が見つかりやすい工場と敷地の特徴

工場が買い手にとって魅力的な物件であれば、早期の売却やより良い条件での売却が期待できます。ここでは、売却先が見つかりやすい工場と敷地の特徴について解説します。

売却しやすい工場の特徴

以下の特徴を持つ工場は売却しやすい傾向にあります。

  • 構造の汎用性が高い
  • 建築確認済証と検査済証が完備されている
  • 現行の法令(建築基準法、都市計画法など)に適合している

シンプルで汎用的な構造の工場は、構内の設計を自在に変更でき、他の製品の製造にも転用しやすいため、買い手にとって魅力的な物件です。

建物が新しい工場や、古くても適切にメンテナンスされている工場、現行の耐震基準を満たしている工場なども高く評価されるでしょう。建築基準法や消防法、工場立地法などの法規を遵守し、必要な許認可が適切に取得・維持されていることも買い手から評価されるポイントです。

売却しやすい敷地の特徴

工場のある敷地の条件も売却のしやすさを左右する重要な要素です。以下の特徴を持つ敷地は買い手が見つかりやすい傾向にあります。

  • 立地条件が良い
  • 車両の通行や駐車の便が良い
  • 土壌汚染がない

主要な幹線道路に隣接しているか、港湾や空港へのアクセスが良いなど、搬入出の利便性が高い立地には需要があります。従業員の通勤の便が良いことも、高く評価されるポイントです。

適度に広く将来的な拡張性がある敷地や、建物を効率的に配置でき車両の動線を確保しやすい形状(整形地)の敷地も、買い手に好まれる傾向にあります。

土壌汚染や、土壌汚染の原因となる有害物質の使用履歴がないことも、買い手が注視するポイントの一つです。

工場の売却に必要な書類

工場の売却に必要な書類

工場を売却する際には、不動産としての情報や法的な権利関係を明確にするために、さまざまな書類を収集する必要があります。

以下は、工場の売却に必要とされる主な書類です。

  • 登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 登記識別情報通知書(登記済権利証)
  • 敷地の確定測量図
  • 公図(14条地図)
  • 工場の図面(設計がわかるもの)
  • 建築確認済証・検査済証
  • 固定資産税の納税通知書

上記以外にも、取引の内容や物件の状況に応じて、以下の書類が必要になる場合があります。

  • 耐震診断、アスベスト使用調査、土壌汚染調査の報告書
  • 工場立地法に関する届出書類
  • 消防用設備等点検結果報告書
  • 機械設備の一覧表、メンテナンス記録
  • リース契約書
  • 地役権・借地権設定契約書

M&Aで事業ごと売却する場合には、事業に関する資料も必要です。

  • 財務諸表
  • 事業計画書
  • 従業員リスト
  • 契約関連書類(取引基本契約書、賃貸借契約書など)

早い段階でM&Aの専門家に相談し、書類を準備しておくことで、売却プロセスを円滑に進められます。

工場の売却にかかる費用

工場の売却にかかる費用

工場の売却を検討する際には売却価格だけでなく、売却にかかる費用を把握しておくことも重要です。ここでは工場の売却にかかる費用を解説します。

土壌調査費用

1つ目は土壌調査費用です。

工場で過去に有害物質を使用していた履歴がある場合は、売却に際して土壌汚染調査が必要となることがあります。特にM&Aにおいては、買い手企業が将来のリスクを把握するために、以下の調査を要求されることが一般的です。

  • 地歴調査(過去の土地利用状況や有害物質の使用履歴を調べる)
  • 概況調査(土壌や地下水を採取して分析する)
  • 詳細調査(汚染の範囲や深度を特定する)

調査の範囲や深度によって費用は異なりますが、対象カ所全体で数十万円から数百万円、調査規模によってはそれ以上かかることもあります。

土壌の浄化費用

土壌調査の結果、法令の基準を超える汚染が発見された場合は、土壌の浄化措置が必要となり、その費用がかかります。

浄化費用は汚染の範囲や深度、汚染物質の種類、採用する浄化方法によって異なりますが、土壌1㎥あたり3~10万円、工場敷地全体では数千万円規模に及ぶことも少なくありません。

売り手・買い手のどちらが浄化費用を負担するかは、売買契約における取り決めにより定めます。売り手が浄化して引き渡すか、買い手が引き継いで浄化する代わりに売買価格を低減する方法も選択可能です。

工場の解体費用(土地のみ売却の場合)

工場を解体し、土地のみを売却する場合には解体費用が発生します。

工場を不動産として売却する際に、買い手が更地としての利用を希望する場合や、既存の建物に利用価値がないと判断された場合には、売主の負担で工場を解体し、更地にしてから引き渡すことが一般的です。

解体費用は工場の構造や延床面積によって異なり、以下はその目安です。

構造 坪単価 50坪(165.289㎡)あたり
木造 3~4万円 150~200万円
軽量鉄骨造 3.5~5.5万円 175~275万円
重量鉄骨造 4.5~5.5万円 225~275万円
鉄筋コンクリート造(RC造) 6~8万円 300~400万円
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) 5~9万円 250~450万円

※アスベストや廃棄物の処理費用は別途発生

解体費用全体で数百万円~数千万円かかるため、売却価格に大きな影響を与える可能性があります。

なお、M&Aで事業ごと売却する場合は買い手が工場を引き継ぐことが前提のため、原則として解体費用は発生しません。

各種手数料

工場の売却にかかる主な手数料は以下の通りです。

  • 不動産仲介手数料
  • M&Aアドバイザリー手数料
  • 登記費用(所有権移転登記や抵当権の抹消登記を司法書士に依頼する場合)
  • 測量費用(敷地の境界が未確定の場合)

不動産会社に買主探しを依頼した場合、売買契約成立時に不動産仲介手数料を成功報酬として支払います。また、M&A仲介会社にサポートを依頼する手数料も発生します。料金体系は会社によって異なり、着手金や中間金、成功報酬などが設定されることが一般的です。

上記の他、必要に応じて弁護士や公認会計士・税理士、不動産鑑定士などの依頼費用が発生することにも留意しましょう。

工場の売却時にかかる税金

工場の売却時にかかる税金

工場とその敷地を売却し利益(譲渡所得)が生じた場合、以下の税金が課されます。

税金の種類 概要、計算方法等
所得税等(個人の場合) 売却益に対し以下が課税

・短期譲渡所得(所有期間5年以下):税率39.63%

・長期譲渡所得(所有期間5年超):税率20.315%

法人税(法人の場合) 不動産の譲渡所得と他の事業所得と合算した合計額に対し課税

※法人税 = 所得 × 法人税率 − 控除金額

法人住民税 ・均等割と法人税割から構成される地方税

・法人税額をもとに計算

法人事業税 ・所得に対して課税

・赤字の場合は課税されないが、資本金1億円超の法人には外形標準課税が適用される場合がある

地方法人税 ・法人税額に対して課税される国税

・一部が地方に再配分される

消費税 ・工場の建物部分の売却代金に対して課税

※土地の売却は非課税

印紙税 ・不動産売買契約書などの文書に対し課税

・契約金額に応じた税額の定めあり

M&Aで工場を売却する場合は、後述するスキームによってもかかる税金が異なるため、専門家と相談しながら進めることが肝心です。

(情報参照元:国税庁「土地や建物を売ったとき」「復興特別所得税の源泉徴収のあらまし」「No.5759 法人税の税率」「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」)

(情報参照元:e-Gov法令検索「法人税法」「地方税法」「地方法人税法」「消費税法」「所得税法」)

M&Aで工場を売却する4つのメリット

M&Aで工場を売却する4つのメリット

M&Aでの工場売却には、不動産売却にないメリットが存在します。ここでは、M&Aによる工場売却の4つの大きなメリットについて解説します。

節税効果が期待できる

M&Aによる工場売却の1つ目のメリットは、節税効果が期待できる点です。

工場を法人名義の不動産として売却した場合、譲渡益に対して法人税と事業税、法人住民税、地方法人税、消費税が課税されます(実効税率33〜35%程度)。

一方、法人が所有する株式の譲渡によりM&Aを実施した場合、法人税のみが課されます。経営者が個人で株式を所有している場合でも、株式譲渡益に対する税金は分離課税(所得税・住民税・復興税合計20.315%)のみです。

また、組織再編税制の特例の要件を満たせば、所得税や法人税が非課税もしくは繰り延べられる場合がある点もメリットといえます。

(情報参照元:国税庁「No.5759 法人税の税率」)
(情報参照元:経済産業省「企業グループや組織再編に係る税制の整備」)

解体費用が不要になる可能性がある

M&Aで工場を売却すれば、解体費用が不要になる可能性があります。

工場を不動産として売却する場合、買い手の意向によっては既存の建物を解体し、更地にして引き渡す必要が生じます。解体費用は高額になりやすく、売却の目的によってはデメリットがメリットを上回りかねません。

しかし、M&Aで事業ごと工場を売却する場合、買い手は一般に工場を事業に活用することを目的としているため、原則として解体費用が発生しません。M&Aであれば不動産として売却するより、トータルコストを削減できる可能性があります。

従業員の雇用を維持できる

M&Aで工場を事業ごと売却すれば、従業員の雇用を維持できる可能性が高いです。

工場を閉鎖したり、不動産として単独で売却したりする場合、従業員の継続雇用は難しいでしょう。しかし、M&Aによって事業が継続される形で工場が売却されれば、従業員の雇用も買い手企業に引き継がれることが一般的です。

売り手は長年会社に貢献してきた従業員の生活を守りながら、経営者としての社会的責任を果たせます。また、従業員の培ってきた技術・ノウハウの散逸防止と、地域経済への貢献にもつながります。

経営課題の解決が期待できる

M&Aによる工場売却は、さまざまな経営課題の解決につながる可能性があります。

例えば、親族や社内に適切な後継者が見つからない場合でも、M&Aによって第三者に事業を引き継いでもらうことで事業を存続できます。また、特定の工場や事業が不採算である場合には、その部門を切り離して売却することで、経営資源を成長分野や中核事業に集中させることも可能です。

さらに、大手企業や資本力のある企業に事業を売却することで、資金調達力が強化され、新たな販路の獲得、ブランドイメージの向上、技術開発力の強化などにもつながります。買い手企業とのシナジー効果により、単独では成し得なかった事業展開も見込めます

M&Aで売却する場合の5つの注意点

M&Aで売却する場合の5つの注意点

M&Aによる工場売却は多くのメリットがある一方で、注意点も存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることで、スムーズな取引とトラブルの回避につながります。

土壌汚染の有無を確認する

土壌汚染の有無は工場のM&Aにおいて重要なチェックポイントの一つです。

デューデリジェンスの過程で、買い手から土壌汚染調査を求められることは少なくありません。そのため事前に自主的な土壌調査を行い、状況を把握しておくことが望ましいです。

調査の結果、汚染が確認された場合は売買価格に悪影響を及ぼしたり、取引自体が破談になったりする可能性があります。さらに売却後に土壌汚染が発覚した場合、浄化責任や費用負担を巡って買い手と紛争になるおそれがあります。

そのため、土壌汚染に関する責任範囲や費用負担についても、売買契約上で明確に定めておくことが大切です。

都市計画法の区域区分を確認する

工場が立地している土地が、都市計画法上のどの区域区分(市街化区域、市街化調整区域、工業地域、準工業地域など)に該当するかを確認することも重要です。

区域区分によって、建物の用途、建ぺい率、容積率、高さ制限などが定められており、将来的な増改築や用途変更の可否に大きく影響します。例えば、市街化調整区域では原則として新たな建築や増改築が制限されるため、買い手の工場使用ニーズに合わない可能性があります。

特に歴史ある企業の場合は、建築時点で法に適合していても、都市計画法の制定や用途地域の変更によって用途不適合になっていることも少なくありません。事前にインターネットの都市計画図や、自治体の都市計画課もしくは建築課で区域区分を確認しておきましょう。

(情報参照元:国土交通省「都市計画制度の概要」)

建築確認済証や検査済証の有無を確認する

M&Aの実施前に、工場の建築確認済証や検査済証の有無も確認しておきましょう。

  • 建築確認済証:建築計画が建築基準法に適合していることの証明
  • 検査済証:建物が建築確認の通りに完成し、法に適合していることの証明

上記の書類を紛失していたり、取得していなかったりする場合、工場の建築の適法性が疑われて買い手からの信用が低下し、売買価格が減額される可能性があります。

建築の適法性が証明されなければ、買い手企業にとっては融資が困難になったり、将来的な増改築ができなくなったりするためです。

そのため、書類が社内にない場合は、自治体の建築指導課や建築確認台帳で適合性を確認し、「台帳記載事項証明書」を取得するなどの対処が必要です。

(情報参照元:国土交通省「既存建築物の活用の促進について」「既存建築物の現況調査ガイドライン(概要)

借地の場合は地主の承諾を得る

工場が自社所有の土地ではなく、借地の上に建っている場合、M&Aのスキームによっては地主の承諾が必要になることがあります。

事業譲渡の場合は、建物の所有権を譲渡する際に借地権も譲渡されます。借地権の譲渡には、原則として地主の承諾が必要であり、無断で譲渡すると地主から借地契約を解除されるリスクがあります。

株式譲渡の場合は借主(会社)が変わるわけではないため、原則、地主の承諾は不要です。ただし、賃貸借契約書に「株主の変更」「支配権の移転」について地主への通知や承諾を要する条項がある場合は、承諾が必要です。

M&Aの手続きにかかる手間と時間を考慮する

M&Aによる工場売却においては、一般に不動産売却よりも手続きに手間と時間がかかる点を考慮しなければなりません。

例えば秘密保持契約においては、保護されるべき情報の範囲を明確に定義し、秘密保持義務が適用されない例外規定や、適用期間などを定める必要があります。さらに、デューデリジェンスへ対応するために、必要書類の準備や情報開示する範囲の決定などが必要です。

M&Aを円滑に進めるためにも、工場と事業の売却までにかかる時間を考慮した事業計画を立案することが大切です。

M&Aで工場を売却する3つのスキーム

M&Aで工場を売却する3つのスキーム

M&Aで工場を売却する際の主な手法(スキーム)には3種類があり、それぞれ特徴や手続き、税務上の取り扱いが異なります。自社の状況や売却の目的、買い手のニーズを総合的に考慮し、最適なスキームを選択しましょう。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手企業の株主が保有する株式を買い手企業に譲渡することで、経営権を移転させるスキームです。

株主が変更されるのみのため、個別の資産や負債の移転手続きが不要であるなど、手続きが比較的簡便な手法といえます。許認可や従業員との雇用契約、取引先との契約関係などを包括的に引き継げる点もメリットです。

ただし買い手企業にとっては、簿外債務や偶発債務などのリスクも引き継ぐことになるため、財務内容が良好でないと買い手が見つかりにくい可能性があります。また、全株式を譲渡するには、株主全員の同意が必要となる点にも留意しましょう。

株式譲渡のスキームは、工場を含む会社全体を売却したい場合に適しています。

事業譲渡

事業譲渡は、会社が有する事業の一部または全部を、他の会社に譲渡するスキームです。

売り手が特定の事業(工場とその関連事業など)を選択し、その事業に関する資産(土地、建物、機械設備、在庫、知的財産権など)や負債、契約、従業員などを、個別に買い手企業に譲渡します。

売り手側が売却したい事業や資産を選択でき、買い手も必要な事業や資産だけを選んで取得できる半面、個々の資産や負債、契約などを移転する多数の手続きが生じます。原則的に、移籍する従業員や顧客から個別に移転に関する同意が必要です。

事業譲渡は、工場事業のみを売却したい場合や、特定の事業部門を切り離したい場合に適しています。

会社分割

会社分割は、会社を分割して、特定の事業を別の会社に移転するスキームです。会社の一部門(工場を含む事業部門)を切り出して、新たな会社を設立(新設分割)するか、既存の別会社に承継(吸収分割)させるか、いずれかの方法で実施します。

事業譲渡と同様に、対象事業を選択して承継させることが可能です。また株式譲渡と同様に、事業に関する権利義務を包括的に承継できるため、個別の移転手続きが事業譲渡に比べて簡略化できる場合があります。

ただし、株式譲渡や事業譲渡に比べて手続きが複雑になる傾向があります。株主総会の特別決議や、債権者保護手続きが必要になる場合があるため、M&Aアドバイザーや弁護士、税理士などの専門家と密に連携して進めることを推奨します。

会社分割は、工場部門を独立させて売却したい場合などに適しています。

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M&Aで工場を売却する5ステップ

M&Aで工場を売却する5ステップ

M&Aによる工場売却には、多様な専門知識や手続きが必要となるため、専門家の協力を得ながら段階的に進めていくことが重要です。ここでは、M&Aによる工場売却の5つのステップを解説します。

Step1.事前準備

M&Aを検討する際の事前準備は以下の通りです。

  • 売却目的の明確化
  • 自社分析と企業価値評価
  • M&Aアドバイザーの選定・契約
  • 必要書類の準備
  • 売却スキームの検討

M&Aの軸がブレないために、なぜ工場を売却するのか、売却によって何を実現したいのかを明確にしましょう。続いて、自社の強み・弱み、売却対象となる工場の事業内容、収益性、将来性などを客観的に分析します。

そしてM&Aアドバイザーや公認会計士などに、おおよその企業価値(売却価格の目安)を算定してもらい、どのスキームで売却を進めるかを検討します。

Step2.買い手探し

事前準備が整ったら、次は買い手となる企業を探すステップです。

  • ロングリストとショートリストの作成
  • ノンネームシートでの打診
  • 秘密保持契約(NDA)の締結
  • 企業概要書(IM)の提示

M&A仲介会社と協力して、工場の事業内容や規模、売主の希望条件などをもとに、シナジー効果が期待できる潜在的な買い手候補をリストアップ(ロングリスト)します。

リストを絞り込んで具体的なアプローチ先のリスト(ショートリスト)を作成したら、候補企業に対して、社名が特定できないように匿名化された情報(ノンネームシート)を提示し、関心の有無を探ります。

関心を示した候補企業に対し、企業概要書(IM)で財務状況などの詳細情報を開示する前に、秘密保持契約(NDA)を締結しましょう。

買い手候補の選定にあたって考慮すべきポイントは以下の通りです。

  • 事業規模
  • 財務状況
  • 業界におけるポジション
  • 買収目的
  • 企業文化

Step3.交渉~基本合意

IMを検討した買い手候補の中から、具体的な交渉に進む企業を選定し、条件交渉を行います。

  • トップ面談
  • 譲渡価格・条件交渉
  • 意向表明書(LOI)の受領
  • 基本合意書(MOU)の締結

売り手と買い手の経営トップ同士が互いの経営理念や事業戦略、M&Aに対する考え方などを共有し、信頼関係を構築します。買い手から買収価格や従業員の処遇、支払方法などの初期的な提案がなされたら、M&A仲介会社を介して交渉を進めることが一般的です。

買い手候補が正式に買収の意向を示したら、買収希望価格やスケジュール、デューデリジェンスの期間などが記載された意向表明書(LOI)を受領します。

そして主要な条件に大筋で合意したら、デューデリジェンスの実施や独占交渉権の付与、スケジュールなどを盛り込んだ基本合意書(MOU)を締結します。

Step4.デューデリジェンス(DD)

基本合意締結後、買い手は買収に伴うリスクを把握し最終的な買収判断を行うために、売り手企業や対象事業に対して、以下の詳細調査(デューデリジェンス・DD)を実施します。

  • 事業DD(市場環境、競争優位性、事業計画の妥当性など)
  • 財務DD(財務諸表の正確性、収益性、キャッシュフローなど)
  • 法務DD(契約関係、訴訟リスク、許認可、コンプライアンス体制など)
  • 人事DD(労務管理、人事制度、キーパーソンなど)
  • 環境DD(土壌汚染、アスベスト、環境法規制遵守状況など)

DDの結果、想定外の問題点が発見された場合、最終的な譲渡価格や契約条件に影響を与えたり、取引が中止になったりするおそれがあります。取引への影響を最小限に抑えるために、売り手は買い手側からの資料提出要求や質問に対し、正確かつ迅速に対応しなければなりません。

Step5.クロージング

DDで判明した事項を考慮し、譲渡価格やその他の契約条件について最終的な調整を行ったら、合意した内容に基づき法的拘束力のある最終契約書を締結します。

そして、最終契約書で定められた前提条件がすべて満たされたことを確認した上で、クロージング(取引の実行)を行います。

  • 株式譲渡の場合:株券の引渡しと譲渡代金の決済
  • 事業譲渡の場合:対象資産の引渡しと譲渡代金の決済

不動産や株式の所有権移転登記、許認可の変更・承継手続きなど、クロージングに伴う必要な法的手続きを実施したら、M&Aの一連のプロセスは完了です。

M&Aによる工場売却で経営資源を最適化しよう

M&Aによる工場売却で経営資源を最適化しよう

工場の売却方法には、従来の不動産としての売却と、M&Aによる売却があります。M&Aで工場を売却すれば、事業の継続、従業員の雇用維持、企業価値の最大化が期待でき、さらに後継者不在や不採算事業の整理、中核事業への集中などの経営課題の解決も可能です。

M&Aによる工場売却を成功させるためには、早期からの周到な準備と、専門家のサポートが不可欠です。

自社の工場が持つ潜在的な価値を正しく評価し、適切な戦略と手順でM&Aを進めることで、経営資源の最適化を図り、企業の新たな成長ステージへとつなげましょう。

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