焼肉屋業界のM&A動向と実態|売却を検討する前に知っておくべきポイントを解説

原材料価格の高騰や人手不足、競争の激化などを背景に、焼肉屋を取り巻く経営環境は年々厳しさを増しています。
「この先も今の形で経営を続けられるのか」「後継者がいないまま年齢だけを重ねている」といった悩みを抱え、将来の選択肢としてM&Aを検討し始める経営者も少なくありません。
本記事では、売り手側の焼肉屋経営者の視点から、業界の現状やM&Aの動向、メリット・デメリット、成功のために押さえておきたいポイントを整理して解説します。
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焼肉屋業界の現状と市場環境

市場の規模や業界特有の課題を理解することは、M&Aを検討するうえで重要です。
本章では、焼肉屋業界が現在どのような状況にあるのかを解説します。
焼肉屋市場の規模と推移
焼肉屋業界は、外食産業の中でも根強い需要を持つ業態として、コロナ禍を経て回復基調にあります。一方で、その回復は一様ではなく、市場の内側では構造的な変化が進んでいます。
原材料費や人件費、光熱費の高騰に加え、大手チェーンの出店加速や異業種からの参入により競争環境は一段と厳しさを増しています。特に、中小・零細の焼肉屋では、価格転嫁が難しく、収益性の確保が大きな課題です。
以下の表では、現在の焼肉屋市場を把握するため、規模感や競争環境、コスト構造のポイントを整理しています。
| 項目 | 概要 | 備考 |
| 市場規模 | コロナ禍で一時的に落ち込むも、回復傾向にある | 焼肉弁当などのテイクアウトやデリバリー需要も一部で定着 |
| 競争環境 | 大手チェーンの出店加速、異業種からの参入で激化 | 他店との差別化がこれまで以上に求められる |
| コスト構造 | 原材料費、人件費、光熱費が高騰 | 価格転嫁が難しい中小店舗は利益確保が困難に |
日本フードサービス協会が公表する外食産業市場動向調査によれば、2025年には前年を上回る水準で売上高が推移しています。ただし、回復を支えている主因は客数の増加ではなく、原材料高などを背景とした客単価の上昇にあります。実際、2025年の焼肉業態では売上高は前年比102.2%となる一方、客数は98.2%と伸び悩み、店舗数もほぼ横ばいです。
(情報引用元:日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査(年間レポート)」)
こうした状況下で、帝国データバンクの調査(2025年1〜8月)によると、焼肉店の倒産件数は32件に達し、2024年の年間倒産件数(56件)に迫る高水準となりました。特に中規模クラスの店舗の倒産が増加しており、負債1億円以上の割合が過去最高の28.1%を占めています。
原材料費や人件費の高騰に対して価格転嫁が進まず、売上は回復しても利益が出にくい構造になっていることが、倒産増加の要因の一つです。

(情報引用元:帝国データバンク「『焼肉店』の倒産動向(2025年1-8月)」)
業界が抱える構造的課題
焼肉屋業界は、他の飲食業態と比較していくつかの特有の課題を抱えています。
| 課題 | 詳細 |
| 人材確保と育成の難しさ |
|
| 衛生管理の重要性 |
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| 設備投資の負担 |
|
これらの要因が複合的に重なることで、焼肉屋の経営は他業態に比べて負荷が大きいと言えます。経営資源に限りのある中小規模の店舗では、日々の運営を安定させるだけでも高い経営判断力が求められます。
経営者の世代交代と後継者不在の実態
焼肉屋業界では、経営者の高齢化が進む一方で、後継者が決まらない店舗が増加しています。
特に、個人経営や家族経営の店舗では、長時間労働や休日の少なさ、設備投資や衛生管理への負担の大きさから、子ども世代が事業承継を敬遠するケースが少なくありません。
また、M&Aなどの第三者承継という選択肢があるにもかかわらず、情報不足や準備の遅れから具体的な対策を講じないまま、廃業を選択せざるを得ない場合も見られます。
こうした後継者不在の問題は、事業継続を難しくする要因です。
焼肉屋業界のM&A動向

後継者不在や経営課題を抱える店舗が増える一方で、大手企業による買収ニーズは高まり、焼肉屋業界のM&Aは活発化しています。
本章では、焼肉屋業界のM&A動向について解説します。
焼肉屋M&Aが増えている背景
焼肉屋のM&Aが増加している背景には、売り手と買い手双方のニーズが合致していることが挙げられます。
| 背景・目的 | |
| 売り手側 |
|
| 買い手側 |
|
近年、経営体力の強化や事業ポートフォリオの見直しを目的とした戦略的なM&Aが増加しています。
どのような買い手・売り手が増えているのか
焼肉屋のM&Aの増加に伴い、取引に関わる買い手と売り手にも変化が見られるようになりました。従来の同業間取引にとどまらず、異業種や投資主体の参入が進む一方、売り手側も多様な事情を背景にM&Aを選択しています。
<主な買い手>
- 同業の大手企業:スケールメリットを活かし、店舗網を拡大
- 異業種からの参入企業:飲食事業への進出や事業の多角化を目指す
- 投資ファンド:事業を再生・成長させ、企業価値向上後の売却を目指す
<主な売り手>
- 後継者不在の個人経営者:事業と従業員を守るために売却を決断
- 中小企業:中核事業へ経営資源を集中させるため、一部事業を売却
焼肉屋M&Aの主な手法

焼肉屋のM&Aで用いられる主な手法には、株式譲渡と事業譲渡の2つがあります。
本章では、それぞれの手法について、具体的な特徴と注意点、どの手法を選ぶべきかの判断基準について解説します。
株式譲渡
株式譲渡は、法人経営の焼肉屋で会社全体を売却する場合に用いられる代表的な手法です。
経営者が保有する株式を買い手に譲渡することで、経営権が移転します。
株式譲渡のメリットは、手続きが比較的シンプルな点です。株式の名義を変更するだけで会社の所有権が移るため、個別の資産や契約を一つ一つ移転する必要がありません。
また、飲食店営業許可などの許認可も原則として引き継がれるため、営業を中断せずスムーズに事業を継続できます。
一方で、会社に付随する負債や潜在的なリスク(簿外債務など)もすべて引き継がれるため、買い手側は慎重な企業調査を実施することが一般的です。
複数店舗を展開する法人や、会社のブランド力をそのまま活かしたい場合に適した手法です。
事業譲渡
事業譲渡は、「この店舗だけを売りたい」「特定のブランドのみを譲渡したい」といった場合に適した手法です。
売りたい事業を個別に選んで売却できるため、柔軟性が高いことが特徴です。
事業譲渡では、店舗の設備、従業員の転籍、レシピやブランド、取引先との契約など、譲渡対象を具体的に選定します。
買い手にとっては必要な資産だけを取得でき、不要な負債を引き継ぐリスクを回避できるメリットがあります。売り手も会社自体は残るため、他の事業を継続できます。
ただし、個別の資産ごとに移転手続きが必要となり、飲食店営業許可なども買い手が新たに取得しなければなりません。
複数店舗のうち一部のみを売却したい場合や、個人事業主が事業を譲渡する場合に有効な手法です。
どの手法を選ぶべきかの判断基準
どちらの手法を選ぶべきかは、会社の状況やM&Aの目的に応じて異なります。
以下の判断基準を参考にしてください。
<株式譲渡が適しているケース>
- 会社や複数店舗をまとめて引き継いでほしい
- ブランド、取引先、従業員体制を維持したい
- 法人として運営している
<事業譲渡が適しているケース>
- 特定の店舗・事業のみを売却したい
- 不採算店舗の整理、事業の選択と集中を図りたい
- 個人事業主として運営している
最終的な判断は、税務上の影響や法的リスクなども考慮する必要があるため、M&A仲介会社や税理士、弁護士などの専門家への相談が不可欠です。
焼肉屋がM&Aを選択するメリット

本章では、M&Aを選択する売り手側のメリットについて解説します。
店舗価値が売却価格に反映される
M&Aの大きなメリットは、店舗の価値が売却価格に正当に反映される点です。
廃業の場合、評価対象は厨房設備や内装などの有形資産に限られ、処分価格での清算が一般的です。一方、M&Aでは立地条件や固定客、ブランド力、従業員の技術といった無形資産も評価されます。
例えば、地域で認知された店名や安定した来店客数はのれん(営業権)として価格に上乗せされます。
長年積み上げてきた経営の成果を金銭的価値として回収できる点は、売り手にとって非常に大きな利点です。
早期の事業承継・引退ができる
M&Aを活用すれば、短期間で事業承継や引退を進められる可能性があります。
後継者を社内で育成する場合、教育や引き継ぎに長い時間がかかり、経営者の負担も続きます。M&Aであれば、条件に合う買い手が見つかり次第、比較的スムーズに経営権を移転できます。
体力や判断力が十分にあるうちに事業を託すことで、引退後の生活設計を具体的に描けます。自ら引退時期をコントロールできる点は、M&Aならではのメリットです。
倒産リスクを低減できる
M&Aは、経営悪化局面における倒産リスクを下げる有効な手段です。
前述したとおり、原材料費や人件費の高騰、競争激化により、焼肉屋の経営環境は厳しさを増しています。こうした中で単独経営を続けるよりも、資本力やノウハウを持つ企業の傘下に入ることで、事業再建の可能性が高まります。
実際に、資金面や仕入れ面の支援を受けて収益改善に成功するケースもあります。
廃業や倒産を避け、事業を存続させられる点は売り手にとって大きな価値です。
従業員の雇用を維持できる
M&Aは、従業員の雇用を守りながら事業を引き継げる点が特徴です。
廃業を選択した場合、従業員は職を失いますが、M&Aでは従業員の雇用継続が重要な交渉条件として扱われるケースが多くあります。
例えば、既存の店舗運営を引き継ぐ買い手であれば、経験のあるスタッフは重要な戦力です。
長年ともに働いてきた従業員の生活を守れることは、経営者にとって精神的にも大きなメリットと言えるでしょう。
経営資源を統合したシナジーを創出できる
M&Aにより、経営の第一線から退いた後も、店舗やブランドが成長し続ける体制を築ける点は、売り手にとって大きなメリットです。
買い手企業の仕入れ網や販促ノウハウ、人材育成制度を活用することで、共同仕入れによる原価低減や集客力の強化が期待できます。
自ら築いた店舗が次の成長段階へ進む点は、単なる売却以上の価値と言えるでしょう。
焼肉屋のM&Aのデメリットとリスク

M&Aには多くのメリットがある一方で、慎重に進めるべきデメリットやリスクも存在します。
売却価格が期待値に届かないケースがある
自社への思い入れが強いほど、希望額は高くなりがちです。
しかし、M&Aにおける売却価格は、将来の収益性や市場環境、リスク要因などを踏まえた買い手の客観的評価によって決まります。そのため、黒字経営であっても、期待していた価格に届かないケースがあります。
感情面と経済合理性のギャップを理解し、現実的な価格水準の把握が有効です。
成約までに時間と労力を要する
M&Aは、買い手企業の探索から始まり、条件交渉、デューデリジェンス、契約締結まで、複数の工程があります。その過程では、資料作成や打ち合わせなど、経営者自身の関与が不可欠です。
通常業務と並行して進める必要があるため、想像以上に時間と労力を要する可能性があります。
経営者の負担を最小限に抑え、各工程を効率的に進めるために、外部専門家の支援を受けることが重要です。
従業員や取引先に不安が広がるリスクがある
M&A交渉は原則として秘密裏に進められますが、些細な情報から噂が広まる可能性もあります。
万が一、売却の話が不確かな形で伝わると、従業員の動揺や離職、取引先からの警戒を招くおそれがあります。特に、人材や信用が重要な焼肉屋経営においては、情報管理を徹底し、開示のタイミングや伝え方を慎重に設計することが大切です。
売却後も一定期間、経営への関与や役割を求められる場合がある
M&Aでは、事業の円滑な引き継ぎを目的として、売り手経営者が一定期間関与することを求められることがあります。具体的には、現場責任者への引き継ぎ支援や、アドバイザー・顧問として、関与を求められるケースが見られます。
契約内容によっては、売却が成立しても、すぐに経営から完全に退けるとは限らない点に注意が必要です。
焼肉屋業界におけるM&A成功のためのポイント

M&Aを成功させるためには、計画的な準備が不可欠です。
本章では、特に重要な5つのポイントについて解説します。
事業価値を高めるための事前準備を行う
M&Aの場面では、事業の将来性だけでなく、現在の運営体制やリスク管理の状況も厳しく確認されます。
そのため、売却を検討し始めた段階から、次のような観点で準備を進めておくと良いでしょう。
- 財務状況の整理:
不要な経費の削減や役員報酬の見直しを行い、事業本来の収益力を明確にする - 運営のマニュアル化:
料理のレシピや接客手順をマニュアル化し、属人化しない体制を整える - 法務・労務の整備:
契約書や就業規則などを整備し、法的なリスクをなくしておく
買い手視点で評価される項目を押さえる
M&Aでは、売り手が考える強みだけでなく、買い手がどの視点で事業を評価するのかを理解しておくことが重要です。買い手は、将来にわたって安定した収益が見込めるかどうかを判断するため、事業内容を多角的に確認します。
具体的には、次のような項目がチェックされる傾向にあります。
| 評価項目 | チェックされるポイントの例 |
| 収益性 | 安定した営業利益が出ているか、成長性は見込めるか |
| ブランド力 | 地域での知名度、口コミサイトやSNSでの評判 |
| 立地 | 駅からの距離、周辺の人口、競合店の状況 |
| 仕入れルート | 品質の高い食材を安定的に安く仕入れられるか |
| 人材 | 従業員の定着率、熟練したスタッフの有無 |
これらの項目で、自社の強みをアピールできるように整理しておきましょう。
契約条件で注意すべき点を把握する
M&Aを進める際は、主に以下のような契約条件をしっかりと確認する必要があります。
- 従業員の雇用条件の扱い:
雇用継続の有無や待遇維持の範囲は、口頭合意ではなく契約書上で明確に定めておく - 売却後の経営者の責任範囲:
表明保証や補償条項の内容によっては、売却後も一定期間、責任を負う可能性がある - 売却後の関与条件:
アドバイザーとしての関与期間や役割が定められている場合、その範囲と負担を事前に確認する - 想定外リスクの有無:
条件の解釈次第でトラブルに発展しないか、契約内容全体を通してチェックする
これらを十分に把握するためにも、M&A仲介会社や弁護士などの専門家の助言を受けながら進めることが重要です。
税務・法務チェックを徹底する
M&Aを円滑に進めるためには、税務・法務のチェックを徹底することが不可欠です。
例えば、譲渡益にかかる税金の見落としにより、手元資金が大きく減少するケースや、契約書の不備から損害賠償責任を問われる事例も見られます。
こうしたリスクを回避するために、税理士や弁護士と連携し、条件や契約内容を事前に精査しましょう。
早期に専門家に相談する
焼肉屋のM&Aを円滑に進めるためには、早期の専門家への相談が鍵です。
M&Aは、相手探しから条件交渉、企業価値評価、契約締結まで多くの専門的な工程を伴い、経営者だけで対応することは現実的ではありません。
実績のあるM&A仲介会社に早めに相談することで、経営者は自社に合った売却戦略の立案や、適切なタイミングの見極めが可能です。
また、第三者の視点が入ることで、条件面での思い込みや判断ミスを防げる点も大きなメリットです。
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本章では、実際の焼肉業界のM&A事例を紹介します。
大手による地方有力チェーンの取り込み
事例:あみやき亭によるニュールックの子会社化
2023年3月、焼肉チェーン大手の株式会社あみやき亭は、横浜市を中心に直営19店舗・FC9店舗を展開する株式会社ニュールックの全株式を取得し子会社化しました。このM&Aの目的は、横浜エリアでの営業基盤強化と、ニュールックの特色ある商品企画力を自社グループに取り込み、商品開発力や成長力を高めることです。
本件は、地方有力チェーンが事業価値を評価され、大手資本と連携する典型的なM&A事例と言えます。
| 項目 | 内容 |
| 売り手 | 株式会社ニュールック |
| 買い手 | 株式会社あみやき亭 |
| 手法 | 株式譲渡(全株式取得・子会社化) |
| 目的 | 横浜エリアでの営業基盤強化、特色ある商品企画力の取り込み |
(参考:株式会社あみやき亭「株式会社ニュールックの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」)
異業種・周辺業態からの参入
事例:兼松による物語コーポレーションの株式取得
兼松株式会社は、2023年2月に外食大手の株式会社物語コーポレーションの株式を取得しました。この取引は株式譲渡により実施され、兼松は物語コーポレーションとの関係を強化し、両社の発展を図ることを目的としています。
物語コーポレーションは焼肉業態で国内売上高が首位クラスを誇る外食企業であり、兼松は長年にわたり食材供給を通じ良好な関係を築いてきました。
本件は経営権の移転を伴うものではありませんが、異業種企業が外食業界と資本関係を構築した広義のM&A事例と言えます。
| 項目 | 内容 |
| 売り手 | 株式会社物語コーポレーション |
| 買い手 | 兼松株式会社 |
| 手法 | 株式譲渡(株式取得による連携) |
| 目的 | 良好な関係強化と協業推進、事業基盤の強化 |
(参考:兼松株式会社「兼松、外食企業大手『物語コーポレーション』の株式を取得」)
焼肉屋のM&Aは準備と判断が成否を分ける

焼肉屋業界のM&Aは、後継者問題や競争激化といった経営課題を解決し、事業を将来へ引き継ぐ有効な選択肢です。ただし、成功させるためには業界動向を踏まえた適切な判断と、十分な準備期間の確保が欠かせません。
特に、自社の強みや課題を客観的に整理し、最適な相手やスキームを見極めるには、M&Aに精通した専門家の知見が重要です。早期にM&A仲介会社へ相談することで、選択肢を広げ、納得感のある意思決定につながります。
将来を見据えた経営判断の第一歩として、まずは信頼できる専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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