会社をたたむには?手続き・費用・判断基準を徹底解説
後継者の不在や経営状況の悪化など、さまざまな理由から「会社をたたむ」という決断を考える経営者の方は少なくありません。
しかし、その判断は事業や家族、従業員の将来にも関わるため、簡単には決断できないものです。
この記事では、「会社をたたむ」とは何か、どのような理由でたたむケースが多いのかを解説するとともに、判断基準や手続きの流れ、必要な費用や期間、そして“たたまなくても済む”支援制度やM&Aといった選択肢まで幅広く紹介します。
将来を見据えたうえで後悔のない選択をするために、ぜひ最後までご覧ください。
会社をたたむとは
会社をたたむとは、一般的に事業を停止し、法人格を消滅させる一連の手続きのことです。
この「会社をたたむ」という言葉には、いくつかの異なる状態が含まれており、それぞれ法的な意味合いや手続きが異なります。
ここでは、会社をたたむ際に重要な「廃業」「倒産」「解散」「清算」の違いと、個人事業主と法人の廃業の違いについて解説します。
廃業・倒産・解散・清算の違い
会社をたたむ際に使われる「廃業」「倒産」「解散」「清算」という言葉は、それぞれ意味が異なります。
これらの違いを理解することは、会社をたたむという決断をする上で非常に重要です。
用語 | 意味 | 詳細 |
廃業 | 事業を自主的に停止すること | 会社の経営状況に関わらず、経営者の判断で事業を停止することを指します。黒字であっても、後継者不足や個人的な理由で廃業を選択する場合があります。 |
倒産 | 経済的に破綻し、事業の継続が困難になること | 資金繰りの悪化などにより、債務の支払いができなくなり、事業の継続が不可能になる状態を指します。倒産には、破産、民事再生、会社更生など、いくつかの法的手続きがあります。 |
解散 | 法的な人格を消滅させるための手続きの開始 | 株主総会での決議や、定款で定められた解散事由の発生などにより、会社を解散することを決定する手続きです。解散後には、清算手続きが必要です。 |
清算 | 会社の財産を整理し、債務を弁済する手続き | 解散後に行われる手続きで、会社の財産を換金し、債権者への支払いや残余財産の分配を行います。清算手続きが完了すると、会社は法的に消滅します。 |
一般的に「会社をたたむ」という言葉は、これらの手続き全体を包括的に指すことが多いですが、正確にはそれぞれの意味合いが異なることを理解しておきましょう。
個人事業主と法人の廃業の違い
個人事業主と法人では、廃業の手続きや意味合いが異なります。
個人事業主の場合、廃業は比較的簡単で、税務署への届出などが主な手続きです。
一方、法人の場合は、解散や清算といった法的な手続きが必要となり、より複雑になります。
区分 | 個人事業主 | 法人 |
廃業手続き | 税務署への届出、事業廃止の申告など | 株主総会での解散決議、解散・清算人選任登記、清算手続き、清算結了登記など |
手続きの複雑さ | 比較的簡単 | 複雑で、専門知識が必要 |
費用 | 比較的少額 | 登記費用、専門家への報酬などが発生 |
法的な人格 | 個人と事業が一体 | 法人格があり、個人とは区別される |
個人事業主の場合は、事業主個人の判断で比較的容易に廃業できますが、法人の場合は、株主総会での決議や法的な手続きが必要となるため、専門家(弁護士、司法書士、税理士など)のサポートを得ることをおすすめします。
会社をたたむかどうかの判断基準
会社をたたむ(廃業・解散)という決断は、経営者にとって非常に重く、慎重な判断が求められます。
感情的な部分だけでなく、客観的な視点を取り入れ、冷静に判断することが重要です。
ここでは、会社をたたむべきかどうかを判断するための重要な基準を4つご紹介します。
事業を続ける見通しが立つか
まず、現状の事業を続けることで、将来的に収益が改善する見込みがあるかどうかを慎重に検討する必要があります。
以下の点を考慮し、客観的に判断しましょう。
- 市場の動向:市場全体の需要は今後どう変化していくのか。自社の製品やサービスが、その変化に対応できるか。
- 競合の状況:競合他社の動向はどうか。自社の競争優位性は保たれているか。
- 経営状況:売上、利益、キャッシュフローはどうか。改善の見込みはあるか。
- 技術革新:業界の技術革新のスピードは速いか。自社は対応できているか。
これらの要素を分析し、事業を続けることが難しいと判断される場合は、会社をたたむことを視野に入れるべきでしょう。
後継者や引き継ぎ先が見つかるか
後継者不足は、中小企業が廃業を選択する大きな理由の一つです。
親族内承継、従業員承継、M&A(Mergers and Acquisitions)など、さまざまな選択肢を検討する必要があります。 それぞれの選択肢について、以下の点を考慮しましょう。
- 親族内承継:後継者候補はいるか。後継者となる意思はあるか。経営能力は十分か。
- 従業員承継:従業員の中に、経営を引き継げる人材はいるか。資金調達は可能か。
- M&A:買い手は見つかるか。希望する条件で売却できるか。
後継者が見つからない場合や、M&Aによる事業承継が難しい場合は、会社をたたむことを検討せざるを得ないかもしれません。
事業承継型M&Aとは?メリット・デメリット・成功のポイントを解説
資産と負債のバランスに無理がないか
会社の資産と負債のバランスは、経営状況を判断する上で非常に重要な要素です。
以下の点を把握し、現状を正確に把握しましょう。
- 資産:現金、預金、売掛金、在庫、不動産などの総額はいくらか。
- 負債:借入金、買掛金、未払金などの総額はいくらか。
- 自己資本:資産から負債を差し引いた金額(純資産)はプラスかマイナスか。
負債が資産を大幅に上回っている状態(債務超過)が続いている場合や、資金繰りが困難な状況が続いている場合は、会社をたたむことを検討する必要があるでしょう。
客観的な視点で判断できているか
経営者は、どうしても自分の会社や事業に思い入れが強く、客観的な判断が難しくなることがあります。そのため、第三者の意見を聞くことが重要です。
以下のような専門家に相談し、客観的なアドバイスを求めましょう。
- 税理士:財務状況の分析や、税務上の影響について相談できる。
- 弁護士:法的な手続きや、債権者との交渉について相談できる。
- 中小企業診断士:経営状況の分析や、事業再生計画の策定について相談できる。
専門家のアドバイスを受けることで、冷静な判断を下すことが可能です。
これらの判断基準を総合的に考慮し、会社をたたむことが最善の選択であると判断した場合は、次のステップに進むことになります。
会社をたたむ決断の前に検討すべきこと
会社をたたむという決断は、経営者にとって非常に大きな決断です。
一度実行してしまうと、元に戻すことはできません。
そのため、会社をたたむ前に、さまざまな角度から検討を重ね、本当に最善の選択なのかどうかを見極める必要があります。
デメリットや影響
会社をたたむ決断を下す前に、どのようなデメリットや影響が生じるかをしっかりと把握しておくことが重要です。
特に、経営者本人だけでなく、従業員や取引先、家族などにも少なからず影響が及ぶため、慎重な判断が求められます。
- 従業員への影響:従業員がいる場合、退職に伴う精神的・経済的な不安が生じる可能性があります。雇用の喪失は生活に直結する問題であり、事前の説明やサポートが不十分だとトラブルに発展することもあります。
- 取引先や仕入先への影響:未払いの請求や契約違反のリスクも考慮しなければなりません。
- 財務面への影響:金融機関との関係や保証人の責任などでも大きな影響があります。特に法人代表者が個人保証をしている場合、会社をたたんでも債務が残ることがあるため、私的整理や法的手続きの必要性も出てくるでしょう。
- 社会的信用や評判への影響:廃業を公表することによって、社会的信用や評判が損なわれる場合もあります。将来的に別の事業に挑戦したいと考えている場合は、廃業時の対応が次のステップに影響を与えることもあるため、誠実で丁寧な対応が不可欠です。
このように、会社をたたむことには多方面への影響が及ぶため、感情や一時的な判断に流されず、リスクや関係者への配慮も含めて冷静に検討する必要があります。
従業員や取引先に伝えるタイミング
会社をたたむことを決断した際、従業員や取引先にいつ、どのように伝えるかは極めて重要なポイントです。伝えるタイミングを誤ると、混乱や不信感を招き、業務の停滞や不要なトラブルにつながる可能性があります。
まず、従業員への報告は、できるだけ早い段階で行うことが理想です。
会社の方針転換や業績悪化が明らかになった段階で、廃業の可能性があることを伝えておくと、従業員は今後の生活設計や転職活動に備えられます。
ただし、不確定な情報を早期に伝えすぎると、不安や動揺を生む恐れもあるため、「方針が固まり次第、誠実に共有する」という姿勢が大切です。
また、取引先への報告は、正式な決定後に速やかに行ってください。
特に長期的な取引や継続契約を結んでいる場合は、契約上の整理や代替策の検討も必要です。突然の通知は信頼関係を損なうだけでなく、損害賠償やトラブルに発展する可能性もあるため、誠意ある対応が求められます。
いずれの場合も、情報を小出しにせず、丁寧に説明することが信頼維持の鍵です。曖昧な表現ではなく、「なぜその決断に至ったのか」「今後どうするのか」を具体的に伝えることで、関係者の不安を最小限に抑えられます。
休眠会社として維持する選択肢
会社をたたむ以外にも、休眠会社として維持するという選択肢があります。休眠会社とは、事業活動を停止し、登記上は存続している会社のことです。
休眠会社として維持するメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
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休眠会社として維持するかどうかは、将来の事業計画や経済状況などを考慮して慎重に判断する必要があります。
第三者への事業承継という選択肢
後継者不在や経営継続の負担を理由に会社をたたむ前に、第三者への「事業承継(M&A)」を選択する方法もあります。
これは、親族や従業員ではなく、外部の企業や個人に会社や事業を譲渡する方法です。
事業承継のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
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M&Aを成功させるには専門家の力が不可欠です。中小企業のM&Aは年々増えており、相談先も充実しています。
すぐに会社をたたむのではなく、価値ある「引き継ぎ」の選択肢として、ぜひ検討すべき方法です。
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会社をたたむのを回避するための制度や支援策
会社をたたむ決断は、経営者にとって苦渋の選択です。
しかし、状況によっては、会社をたたむ以外にも選択肢があります。
ここでは、会社をたたむのを回避するための制度や支援策について解説します。
事業再生支援・補助金制度
経営悪化に直面して「会社をたたむ」選択を検討する前に、まずは事業再生を図るための支援制度を確認しましょう。
事業の立て直しに活用できる公的な支援制度には、以下のようなものがあります。
支援制度名 | 内容の概要 | 対象となる事業者 |
早期経営改善計画策定支援事業 | 認定支援機関のサポートを受けて、経営改善の計画を作成できる | 売上減少など経営課題を抱える中小企業 |
事業再構築補助金 | 業態転換や事業再構築に必要な費用の一部を国が補助 | 新規事業に取り組む中小企業・中堅企業 |
小規模事業者持続化補助金 | 販路拡大・業務効率化に必要な経費を補助 | 従業員数5人以下(宿泊・製造などは20人以下)の小規模事業者 |
制度活用のポイントとしては、以下のことに気をつけましょう。
- 経営計画の作成には認定支援機関(税理士・中小企業診断士など)の協力が必要
- 補助金は審査制であり、採択まで時間がかかるため早めの準備が重要
- 必要書類や制度の要件は都度更新されるため、最新情報を確認すること
これらの制度を活用すれば、外部資金や専門家の力を得て再出発の道を探れます。会社をたたむ前に、こうした支援の存在を確認し、再生の可能性を検討してみましょう。
資金繰り支援や特別融資制度
資金繰りの悪化により「会社をたたむしかない」と感じていても、金融支援を受けることで状況が改善される可能性があります。
公的金融機関や地域の支援機関では、返済負担を軽減できる特別融資制度が整備されています。
代表的な資金繰り支援制度は、以下の通りです。
- 日本政策金融公庫の特別貸付制度:新型コロナなどの影響に対応するため、無利子・無担保または低金利で資金調達が可能。
- 商工中金の危機対応融資:原材料高騰や売上減少に直面した企業に対し、返済据置期間を設けた融資を実施。
- 地方自治体の独自支援制度:保証料の一部補助や信用保証協会の保証付き融資など、地域に応じた支援制度が活用できる。
なお、融資制度を利用する際には、以下のことに注意してください。
- 融資はあくまで「借入れ」であるため、返済計画の立案が不可欠
- 自社の信用情報や財務状況に応じて利用可能な制度が異なる
- まずは金融機関や商工会議所に相談し、自社に合った制度を紹介してもらうのがスムーズ
資金繰りの一時的な悪化であれば、これらの支援制度を活用して乗り切れるケースもあります。廃業を検討する前に、必ず資金面の支援制度もチェックしておきましょう。
M&Aによる事業承継
M&A(会社の売却)は、第三者への事業承継の中でも、経営資源を引き継ぎつつ、オーナーに金銭的な利益ももたらす方法です。事業を残しながらも、経営の第一線から退く選択肢として注目されています。
M&Aの特徴は以下の通りです。
- 廃業よりも経済的メリットが大きいことが多い:清算では残らない資産も、M&Aなら「企業価値」として評価される可能性があります。
- 買い手企業によっては事業がより成長することもある:経営資源が不足していた中小企業でも、買収後に資金や人材の支援を受けて成長を続ける事例があります。
- 取引は非公開で進められる:社内や取引先への影響を最小限にしつつ、秘密裏に交渉できる点も魅力です。
なお、M&Aは相手先の選定や条件交渉が重要なため、専門の仲介会社やアドバイザーの支援が欠かせません。まずは無料相談から始めることで、自社に適した選択肢が見えてくる可能性があります。
中小企業庁・公的支援機関への相談
会社の存続に悩んだ際、まず相談すべきなのが中小企業庁や各地の公的支援機関です。民間のコンサルティングよりも中立的な立場で、事業者の実情に寄り添ったアドバイスを受けられる点が大きなメリットです。
代表的な相談先には、以下のような機関があります。
支援機関名 | 主な支援内容 | 相談の特徴 |
中小企業庁「事業引継ぎ支援センター」 | M&Aや後継者問題の相談対応、マッチング支援 | 全国の商工会議所などに設置されており、無料で相談可能 |
よろず支援拠点 | 経営全般の相談、資金繰りや再生計画のアドバイス | 各都道府県にあり、事前予約で個別相談が可能 |
商工会・商工会議所 | 廃業・再生・M&Aに関する相談、補助金申請支援 | 地域密着型の支援が得られる |
中小企業再生支援協議会 | 資金繰りや事業再構築など、再生計画の策定支援 | 債権者との調整も含めた本格的な支援が受けられる |
これらの支援機関は、無料または低コストで利用できることが多く、初期段階での相談先として非常に有効です。
また、必要に応じて民間の専門家や金融機関との橋渡しも行ってくれます。
「会社をたたむべきか、もう少し続けるべきか」と迷っている場合は、まずは一人で抱え込まず、こうした公的機関に相談してみることが第一歩となるでしょう。
会社をたたむ手続き
会社をたたむ(解散・清算)には、法的に定められた一連の手続きが必要です。
ここでは、その具体的な流れと各段階での注意点について解説します。
従業員・取引先・金融機関への説明
会社をたたむ決断をしたら、初めに行うべきは関係者への説明です。
従業員、取引先、金融機関など、会社の活動に関わるすべての人々に対し、誠意をもって丁寧に説明を行いましょう。
- 従業員への説明: 解雇や退職に関する条件、今後の生活設計など、従業員の不安を解消できるよう努めましょう。
- 取引先への説明: 契約解除や未払い金の清算など、取引先に迷惑がかからないよう、早めに状況を伝え、協議を行います。
- 金融機関への説明: 借入金の返済計画や担保の解除など、金融機関と綿密に連携し、円滑な清算を目指しましょう。
株主総会での解散決議
会社を解散するには、株主総会での特別決議が必要です。議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得る必要があります。(会社法309条2項)
解散決議では、以下の事項を決定します。
- 会社の解散
- 清算人の選任
- 清算事務の報告方法
解散と清算人の選任・登記
株主総会で解散が決議されたら、解散と清算人選任の登記を行います。この登記は、解散決議の日から2週間以内に行う必要があります。
通常は会社の代表者が清算人となりますが、株主総会で別の人物を選任することも可能です。
登記申請には、以下の書類が必要です。
- 解散及び清算人選任登記申請書
- 株主総会議事録
- 定款
- 印鑑証明書(代表取締役・清算人)
各種届出や解約手続き
解散登記後、税務署や地方自治体、社会保険関係機関などに対して、期限内に必要な書類の届出を行います。
【税務署・地方自治体への届出】
法人の解散・清算に関する税務処理は、主に次のような書類の提出が必要です。
届出先 | 主な提出書類 |
税務署 |
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都道府県税事務所など |
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これらの書類は、登記事項証明書(謄本)を添付して提出する必要があります。
【社会保険・労働保険関連の届出】
会社を廃止した際には、従業員の保険資格喪失や事業所の廃止に伴う手続きを行う必要があります。提出期限が短いため注意が必要です。
届出先 | 主な提出書類 | 提出期限の目安 |
日本年金機構 |
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事業所廃止日から5日以内 |
ハローワーク |
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廃止日の翌日から10日以内 |
労働基準監督署 |
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廃止日の翌日から50日以内 |
届け出先によって書類の種類や提出期限が異なるため、提出ミスや期限超過を防ぐためにも、専門家に相談しながらスケジュールを管理して進めることが重要です。
官報での公告
会社法に基づき、解散公告を官報に掲載する必要があります。これは、債権者に対して会社が解散し、債権の申し出を受け付ける旨を知らせるための手続きです。公告期間は2カ月以上と定められています。
官報公告には、以下の内容を記載します。
- 解散の旨
- 債権申出期間
- 清算人の氏名または名称および住所
決算書類の作成と申告
会社をたたむ際には、最終的に残った財産を株主に分配するために、決算書の作成と確定申告が必要です。
まず、会社が解散した時点で、それ以前の期間がひとつの事業年度として扱われるため、この期間の決算書を作成し、解散日から2カ月以内に法人税などの確定申告を行い、税金を納めます。
その後は、解散日の翌日から1年間が「清算事業年度」として扱われます。この期間についても同様に、決算書を作成し、事業年度末から2カ月以内に確定申告と納税を行います。
なお、残余財産の確定が1年以内に完了すれば、清算申告は1回で済みますが、財産の売却や精算に時間がかかる場合は、複数回にわたって清算確定申告を行う必要があるため、スケジュール管理に注意が必要です。
残余財産の整理・分配
残余財産とは、清算の過程で債権者への支払いをすべて終えたあとに会社に残る資産のことを指します。
清算人は、債務の清算が完了した時点でこの残余財産を確定し、それを株主へ分配する義務があります。
ただし、株主に分配するためには、残余財産をすべて現金化する必要があります。
この現金化には時間がかかるケースも多く、例えば以下のような資産がある場合は注意が必要です。
- 非上場企業の株式や需要の低い土地など、すぐに売却しにくい資産が含まれている
- 流動資産よりも固定資産の割合が大きい場合(例:設備や不動産など)
このような場合は、債権者と相談しながら、税理士や弁護士などの専門家の助言を受け、無理のない計画で現金化と分配を進める必要があります。
すべての資産が換金され、株主への分配が完了すれば、残余財産の整理は終了です。
清算結了の登記と確定申告
株主総会で清算人による決算報告書が承認されたら、2週間以内に法務局で「清算結了の登記」を行う必要があります。この登記が完了すると、法人格は法的に消滅し、会社の登記簿謄本は「閉鎖謄本」として扱われるようになります。
登記と並行して行うのが、最後の確定申告です。
残余財産の分配が終わった時点で、清算確定申告書を1カ月以内に税務署へ提出し、必要な税金を納めます。残余財産の換金に時間がかかる場合は、分配のたびに申告と納税が必要になることもあるため注意が必要です。
最後に、税務署や関係機関に「清算結了届」を提出すれば、会社をたたむ一連の手続きは完了します。
会社をたたむ際に必要な費用
会社をたたむ(解散・清算)際には、さまざまな費用が発生します。
ここでは、会社をたたむ際に必要となる主な費用について解説します。
登記や申請に関する費用
会社を解散・清算するには、法務局や税務署などに届け出を行う必要があります。
特に法務局で行う解散登記・清算結了登記には登録免許税がかかり、それぞれ3万円(株式会社の場合)が必要です。
謄本の取得費用や収入印紙代なども含めると、数万円程度は見込んでおくと良いでしょう。
退職金や未払い手当の支給
従業員を雇用している場合、退職金や最終月の給与、未払いの残業代・有給休暇の精算などを支払う必要があります。
これらは法的義務がある支払いのため、解散時の優先度は非常に高く、資金繰りへの影響も大きいため事前に試算が必要です。
在庫や設備の処分費用
保有している在庫や固定資産(機械・什器・備品など)を処分する場合、廃棄費用や運搬費用がかかることがあります。
状態が良ければ売却によって一部回収できることもありますが、想定よりも処分コストがかさむケースも多いため、早めの査定・見積もりをおすすめします。
原状回復や解約違約金
オフィスや店舗を賃借していた場合、退去時に原状回復工事が必要になるケースがあります。
契約内容によっては途中解約の違約金や敷金の返還減額が発生することもあるため、事前に賃貸契約書を確認し、貸主と調整をしておきましょう。
専門家への報酬
会社の解散・清算には、税理士・司法書士・社労士など専門家の力を借りる場面が多くあります。
登記手続き、確定申告、社会保険の処理などを委託する場合、それぞれの報酬が発生します。報酬相場は5万円〜30万円程度が一般的ですが、業務範囲や依頼先によって異なります。
【会社をたたむ際にかかる主な費用一覧表】
費用項目 | 内容例 | 概算費用目安 |
登記や申請費用 | 解散登記・清算結了登記、謄本、印紙代など | 約5〜10万円 |
退職金・未払い手当 | 最終給与、退職金、有給消化手当など | 従業員数により変動 |
在庫・設備の処分費 | 廃棄・運搬費、売却ができない資産の処分など | 数万円〜数十万円 |
原状回復・違約金 | オフィス・店舗の原状回復、解約違約金など | 数十万円程度が一般的 |
専門家報酬 | 税理士、司法書士、社労士などへの業務委託費用 | 5〜30万円程度 |
会社をたたむまでの期間
会社をたたむ(解散・清算)には、ある程度の期間が必要です。
ここでは、解散から清算結了までの流れ、各手続きにかかる日数、そして遅延しやすいポイントとその対策について解説します。
解散から清算結了までの流れ
会社をたたむ際は、まず「解散」し、続いて清算手続きに入ります。
大まかな流れは以下のとおりです。
- 株主総会で解散決議
- 解散登記の申請(2週間以内)
- 清算人の選任・登記
- 債権者保護手続き(官報公告+催告)
- 財産の売却・債務の弁済
- 残余財産の確定・分配
- 清算結了決議(株主総会)
- 清算結了登記の申請(2週間以内)
- 税務署などへの清算確定申告と届出
この全体の流れをスムーズに進めるには、書類作成・登記・公告・会計処理などを並行して行うことがポイントです。
それぞれの手続きにかかる日数
各手続きにかかる日数は、会社の規模や状況によって異なりますが、おおよその目安は以下の通りです。
手続き項目 | 目安となる所要日数・期間 |
株主総会の開催と解散決議 | 1〜2日程度(準備期間を除く) |
解散登記・清算人選任登記 | 書類準備に1週間、登記処理に1〜2週間 |
官報公告 | 掲載依頼から掲載まで5〜7営業日 |
債権者への催告期間 | 最低2カ月(法定で決まっている) |
資産処分・債務弁済 | 内容により数週間〜数カ月 |
清算結了登記・税務手続き | 登記処理に1〜2週間、税務処理に2〜4週間 |
最短でも3〜4カ月程度は必要で、財産の処分に時間がかかる場合や、債権者との調整が必要な場合は1年以上かかることもあります。
遅延しやすいポイントと対策
会社をたたむ手続きは、さまざまな要因で遅延する可能性があります。特に注意すべきポイントと、その対策を以下にまとめました。
遅延しやすいポイント | 対策 |
債権者への対応 | 債権者への説明を丁寧に行い、理解を得る。弁済計画を明確に提示する。 |
株主間の意見対立 | 事前に十分な話し合いを行い、合意形成を図る。必要に応じて専門家(弁護士など)に仲介を依頼する。 |
税務申告 | 税理士に依頼し、正確な申告を行う。税務調査に備えて、必要な書類を整理・保管しておく。 |
法務局の手続き | 事前に必要書類を確認し、不備がないように準備する。法務局の混雑状況を考慮し、余裕を持ったスケジュールを組む。 |
許認可の取り消し・返納 | 各許認可の窓口に確認し、必要な手続きを速やかに進める。 |
会社の清算は一度始めると後戻りできない重要なプロセスです。無駄な時間や費用を避けるためにも、全体像を把握し、事前にスケジュールと体制を整えておくことが成功の鍵です。
会社をたたむ決断に迷ったら|後悔しないために今すぐできること
会社をたたむかどうかの判断は、経営者にとって大きな決断です。
清算にかかる費用や手間、従業員や取引先への影響などを冷静に整理し、M&Aや事業再生といった代替策も含めて幅広く検討しましょう。
決断を急がず、税理士・弁護士・支援機関などの専門家に早めに相談することで、見落としが防げます。
会社の未来を見据えたうえで、「たたむ」以外の選択肢も含めた最善の道を選ぶことが大切です。