M&Aで経営者保証は外れる?トラブル回避のポイントと手続きを解説

M&A後に経営者保証が外れず、リタイアしてから返済義務を負い続けるトラブルが後を絶ちません。事業承継を前に「本当に保証から解放されるのか」「契約後に騙されないか」と不安を感じる経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、M&Aにおける経営者保証のトラブル事例と回避策、そして保証を解除する具体的な方法を解説します。
M&Aフォースでは業界に精通した専門チームが、貴社の強みを最大限に引き出すM&A戦略をご提案します。 M&Aに関して、少しでもご興味やご不安がございましたら、まずはお気軽に当社の無料相談をご利用ください。 専門のコンサルタントが、お客様の未来を共に創造するパートナーとして、親身にサポートさせていただきます。
『M&A無料相談』を利用してみる →M&AフォースではM&Aコンサルティングの最新事情がわかる資料をご用意しています。会社の価値がわからない、会社の価値がどう決まるのか知りたいという方は「“売れる”会社のヒントにつながる9つの質問」をダウンロードしてください。
経営者保証とは?M&Aにおける取り扱い

M&Aによる事業承継のメリットの一つは、経営者保証の解除です。しかし近年、M&Aにおいて経営者保証が解除されないトラブルが相次いでいます。
なぜ経営者保証がトラブルの原因となりやすいのか、基本的な構造から理解していきましょう。
経営者保証の概要と必要性
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となる制度です。万が一、会社が倒産などで返済不能に陥った場合に、会社に代わって経営者が返済義務を負います。
債権者(金融機関)にとっては未回収のリスクを軽減でき、高い信用力を持たない中小企業にとっては円滑に資金調達できる仕組みとして、長年機能してきました。
| 項目 | 説明 |
| 仕組み | 会社が主たる債務者、経営者個人が連帯保証人となる |
| 効力 | 会社の返済能力に関わらず、金融機関は直接、連帯保証人である経営者に請求できる |
| 必要性 | ・企業の信用力を経営者個人が補完する
・経営への規律付けや情報開示を促す |
| 対象資産 | 自宅、預貯金、有価証券など、経営者の個人資産すべてが対象となりうる |
M&Aにおける経営者保証や担保の引継ぎ
M&Aの手法のうち、株式譲渡の場合、経営者保証は原則として譲受企業に引き継がれます。ただし自動的に解除されるわけではない点に留意しましょう。M&Aの手法(スキーム)によって経営者保証と担保の取り扱いや、解除に必要な手続きは以下のように異なります。
【株式譲渡】
会社の法人格はそのまま維持され、株主が旧経営者から譲受企業に変わります。譲渡企業が負う債務や保証契約もそのまま引き継がれるのが原則です。
旧経営者の保証を解除するには、金融機関の同意を得て、譲受企業側の保証に切り替えるなどの手続きが別途必要です。
【事業譲渡】
会社の事業の一部または全部を譲受企業に売却する手法です。どの資産や負債を引き継ぐのか、当事者間の契約(事業譲渡契約)で個別に決定でき、譲渡側の経営者保証は原則引き継がれずそのまま残ります。
いずれの場合も、M&A契約において経営者保証の取り扱いが別途定められている場合は上記の限りではありません。契約書の入念な精査が不可欠です。
経営者保証の課題
経営者保証は円滑な資金調達に寄与する一方、経営者個人の資産が常にリスクに晒されるために、思い切った事業展開や早期の事業再生の足かせとなりやすいことが課題です。また、後継者が個人保証の引継ぎを懸念し、事業承継が進まない一因にもなっています。
東京商工リサーチの調査では、経営者保証を提供している企業の75.5%が「外したい」と回答しており、多くの経営者が重荷に感じている実態がうかがえます。
(情報参照元:東京商工リサーチ「『経営者保証』 75%の企業が『外したい』 保証料率の上昇、金融機関との関係悪化を懸念する声も」)
M&Aにおける経営者保証のトラブル事例

本章では実際のトラブル事例を基に、発生要因と背景を解説します。
経営者保証のトラブル事例
M&Aにおける経営者保証トラブルの中でも、特に深刻なのは、M&Aが完了し会社の経営権を譲渡したにもかかわらず、個人保証が解除されなかったケースです。
【経営者保証トラブル事例のプロセス】
- M&A契約締結
譲受側は経営者保証の解除を約束し、株式譲渡契約を締結 - 経営権の掌握
譲受企業の代表者が会社の代表取締役に就任し、銀行印や預金通帳など経営の全権を掌握 - 資産の引き出し
不誠実な対応を行う譲受企業は譲渡企業の預金を別会社に移したり、不必要な経費として流用したりして、会社の資産を計画的に抜き取る - 意図的な倒産
資産を失った譲渡企業は事業継続が不可能になり、倒産
一連のプロセスの間、譲受側は金融機関との保証解除交渉を一切実施せず - 旧経営者への請求
金融機関は譲渡企業の連帯保証人である旧経営者に対して、残った債務全額の返済を請求 - 自己破産
旧経営者は自宅などの個人資産をすべて失い、自己破産を余儀なくされた
悪質な譲受企業によるM&Aトラブルが相次ぐ現状を受け、中小企業庁では不審な点がある場合は日本弁護士連合会(ひまわりほっとダイヤル)や事業承継・引継ぎ支援センターへ相談するよう呼び掛けています。
(情報参照元:中小企業庁「M&Aに関するトラブルにご注意ください」)
発生の要因と背景
重大な経営者保証トラブルは以下の要因が複合的に絡み合って起こります。
- 売り手の焦り
譲渡側の「早く会社を売りたい」「早く解放されたい」といった思惑が先行し、譲受企業の信用力調査や契約内容の精査が疎かになる。 - 契約の不備
契約書で保証解除が買い手の努力義務に留まる、あるいは解除されなかった場合の罰則規定がない。 - 金融機関との連携不足
売買当事者間だけでM&A交渉を進め、保証解除のキーマンである金融機関への相談を怠った結果、クロージングの段階で金融機関の同意を得られない。 - 表明保証違反
M&A契約時に開示した情報(例:財務状況)に誤りがあり、後から簿外債務などが発覚する(後に譲受企業から損害賠償を請求され、保証解除の交渉も頓挫)。
M&Aで経営者保証のトラブルを回避するポイント

M&Aにおける経営者保証トラブルは、事前の準備で防げるケースが大半です。以下ではトラブルを回避するために抑えておくべきポイントを解説します。
中長期的スタンスで準備に取り組む
確実に経営者保証を解除するには、財務体質改善などが必要となるため、中長期的な準備が不可欠です。M&Aの検討を開始したら、以下のポイントで早急に準備を始めましょう。
- 公私の分離:役員貸付金や仮払金など、会社と経営者個人のお金の流れを明確に分離し、整理する。
- 財務基盤の強化:適切な会計処理を行い、決算書の信頼性を高める。併せて実現可能な事業計画を作成し、収益力をアピールする。
- 情報開示:求められた情報は誠実に開示し、経営の透明性を確保する姿勢を示す。
上記は後述する「経営者保証に関するガイドライン」の要件でもあり、いずれも準備に時間がかかります。金融機関との保証解除交渉を円滑に進めるために、早急に着手しましょう。
譲受企業のデューデリジェンスを徹底する
譲受企業のデューデリジェンスを徹底し信頼性を見極めることも、譲渡企業の重要な自己防衛策です。
中小M&Aガイドライン(第3版)では、譲受企業の信頼性を判断するための調査項目を挙げています。ガイドラインに沿って綿密な調査を実施してください(概要を以下にまとめました)。
| 調査項目 | 確認すべきポイント |
| 財務状況 | 保証を引き継ぐに足る十分な資力や信用力があるか。 |
| 事業内容 | M&A後のシナジー効果や事業計画に具体性・実現可能性があるか。 |
| コンプライアンス | 過去に法令違反や訴訟などがないか。 |
| M&Aの実績 | 過去のM&Aでトラブルを起こしていないか。 |
| 経営陣 | 経営陣の経歴や評判は信頼できるか。 |
前経営者の支配権が残っていないか確認する
前経営者の支配権が残っていないかも確認しましょう。M&A後も旧経営者が相談役などで会社に残り、実質的な影響力を持ち続ける場合には、金融機関が保証の解除を認めない可能性があるためです。
前経営者の支配権が残った状態で保証を解除してもらうためには、金融機関の審査を受け、経営権が譲受企業に移転していることを証明する必要があります。必要書類を整え、会社の未来を新しい経営陣に完全に託す姿勢を示しましょう。
【必要書類の一例(金融機関や契約によって異なる場合があります)】
- 経営権の移譲を証明する書類
- 支配権の分離を証明する書類
- 資産の分離を証明する書類
契約書で保証解除を明文化する
トラブルを回避するためには、法的効力を持たない口約束で済ませず、保証解除を法的に義務付ける条項を譲渡契約書に盛り込みましょう。
以下に実務上の条項設定方法をまとめました。ただし契約条項の設定には複雑な法的判断が必要なため、弁護士に相談の上作成してください。
| 盛り込むべき条項 | 具体的な内容(実務上) |
| 解除義務の明確化 | 「解除に努める」といった努力義務に留めず、解除されない場合の対応策、譲受企業の保証履行の担保を明文化する。
停止条件(金融機関の合意が前提)を設定する。 |
| プロセスの具体化 | いつまでに、どのような手続きで保証を解除するのか、具体的なプロセスを明記する。 |
| 担保措置 | 解除が完了するまで、売買代金の一部を第三者(エスクロー業者)に預けるなど、買い手が義務を履行せざるを得ない仕組みを設ける。 |
| 違約金の定め | 万が一、期日までに解除されなかった場合の違約金や損害賠償について具体的に定めておく。 |
金融機関に事前相談する
M&Aの交渉がある程度進んだ段階で、金融機関に譲受候補企業の情報を伝え、保証解除の見通しについて事前に相談しましょう。譲受企業から口止めされた場合は、中小M&Aガイドライン上で金融機関への相談を秘密保持条項の対象から外すよう求められていることを伝えてください。
クロージングと代表者変更登記、保証解除(移行)を同時に行うためにも、保証解除の権限を持つ金融機関に解除の可能性を事前に確認しておくことが不可欠です。
【事前相談のメリット】
- 保証解除の実現可能性を早期に把握できる
- 金融機関との信頼関係を維持し、スムーズな手続きが期待できる
- 解除が難しい場合は代替案(別の融資への借り換えなど)を検討できる
ガイドラインの専門家と連携して進める
M&Aと経営者保証の解除には、法務や財務・税務など高度に専門的な知識が求められるため、専門家との連携が不可欠です。
独力で判断し手続きを進めることには高いリスクが伴います。経営者保証に関するガイドラインで活用が推奨されている以下の専門家にサポートを依頼しましょう。
- M&A仲介会社
- 弁護士
- 公認会計士・税理士
M&A仲介会社については、中小M&Aガイドライン遵守を宣言しているM&A支援機関登録制度の実績豊富な会社を選ぶことが大切です。
M&Aフォースでは業界に精通した専門チームが、貴社の強みを最大限に引き出すM&A戦略をご提案します。 M&Aに関して、少しでもご興味やご不安がございましたら、まずはお気軽に当社の無料相談をご利用ください。 専門のコンサルタントが、お客様の未来を共に創造するパートナーとして、親身にサポートさせていただきます。
『M&A無料相談』を利用してみる →M&Aで経営者保証を解除する4つの方法

M&Aで経営者保証を解除する際に公的な制度が使える場合があります。自社の状況に合わせて最適な方法を検討しましょう。
1.経営者保証ガイドラインの適用を受ける
ひとつ目は、日本商工会議所・全国銀行協会等が策定し、金融庁・中小企業庁が支援した「経営者保証に関するガイドライン」の適用を受ける方法です。
経営者保証ガイドラインとは、企業が一定の要件を満たす場合に、経営者保証を要求しないよう金融機関に促すルールです。日頃から要件を意識した経営を心がけることで、経営の健全性を維持・証明できスムーズな事業承継が可能となるため、M&Aのタイミング以前からの着手を推奨します。
【ガイドラインの3要件】
- 資産の分離
- 財務基盤の強化
- 経営の透明性
2.事業承継特別保証制度を利用する
事業承継特別保証制度は、事業承継の際に後継者の経営者保証が不要となる融資制度です(融資限度額:2億8,000万円)。事業承継計画書策定から3年以内の実行など、一定の要件を満たせば、経営者保証のある既存の借入金についても経営者保証不要の融資に借り換えが可能です。
M&Aに伴う資金調達(株式取得資金など)についても、経営者保証なしで実行できる可能性があります。制度の詳細は各都道府県の信用保証協会にお問い合わせください。
3.日本政策金融公庫・商工中金の無保証融資制度を活用する
日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関では、特定の条件を満たす企業向けに、経営者保証不要の融資制度を用意しています。
M&Aを機に、上記制度を活用して既存の借入金を借り換えることも一つの選択肢です。公的融資で無保証の実績を作れば、他の民間融資で無保証化の交渉材料に使える可能性もあります。
4.停止条件付保証契約で負担を軽減する
停止条件付保証契約は、特約条項違反(例:会社の資産で回収できない損害が発生した場合など)がなければ保証履行義務が発生しないタイプの保証契約です。
保証を完全に外すことが認められない場合でも、将来の特定の事実が発生したときに初めて法的効力が発生する特約を付けることで、経営者のリスクを軽減できます。
(情報参照元:一般社団法人 全国銀行協会「経営者保証ガイドラインQ&Aの改定概要」)
M&Aで経営者保証を解除する実務的対応

本章ではM&Aで経営者保証を解除する実務的な対応策を解説します。
M&A実行前に保証を解除する場合
経営者保証トラブルを未然に防ぐもっとも確実な方法は、M&Aの契約締結前に、既存の借入金の経営者保証を解除しておくことです。金融機関に保証解除を認めてもらうには、前述した経営者保証ガイドラインの要件を満たすことが有効です。
M&A計画が具体化する前から経営状況の改善に努めていれば、スムーズな事業承継につながります。譲受企業としても懸念事項が減るため、M&A交渉を有利に進めやすくなるはずです。
専門機関と連携して進める場合
M&Aで経営者保証を譲受企業へ移行する際の一連の手続きを、専門家と連携して進めることも一つの手です。
一連の交渉には、各方面の専門知識とタフな交渉力が求められます。譲受企業の信用面や誠意の不足などで保証解除に不安が残るケースもあるため、専門家による事前の精査が不可欠です。
顧問の弁護士や公認会計士、あるいは全国に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターのような公的機関に相談し、専門家の視点から不安を解消しておくことを推奨します。
M&A実行時に保証を解除する場合
実務上もっとも多いのが、M&Aの取引完了(クロージング)と同時に保証を解除・変更するパターンです。
【クロージング同日に行う手続き】
- 譲渡代金の決済
- 株主名簿の書き換え
- 譲受企業が譲渡企業の経営者保証の借入を全額返済
- 譲渡企業経営者の保証を解除
- 譲受企業の新規借入(必要に応じて個人保証契約締結)
クロージング日に確実に手続きが完了するように、譲渡・譲受企業、金融機関の三者が連携し、事前に綿密な調整と準備を進めておく必要があります。
M&A契約書で譲受企業に義務を負わせる場合
前述の通り、M&A契約書上で譲受企業に保証解除を法的に義務付けることも可能です。
経済産業省が公開している株式譲渡契約書サンプル(中小M&Aガイドライン参考資料)では、経営者保証の解除に関する条項例が示されています。公的な雛形も参考にしながら、弁護士と相談の上、自社の状況に合った実効性の高い契約書を作成するのが賢明です。
M&Aで経営者保証を解除する流れ
M&Aで経営者保証を解除する一般的な流れは以下の通りです。
- 保証と担保の棚卸し
自社がどの金融機関と、どのような内容の保証・担保契約を結んでいるのかを漏れなくリストアップし、現状を正確に把握する - 財務とガバナンスの整備
「経営者保証ガイドライン」の要件を基準に、公私の分離や経営の透明化を進め、財務体質を改善する - M&A後の事業計画の策定
金融機関との交渉材料として、譲受企業の協力のもと、M&A後の事業の成長可能性を可視化し、具体的で根拠ある事業計画を策定する - 譲渡側・譲受側の役割分担決定
誰が、いつ、どの金融機関と交渉するのか、双方で明確な役割分担を決め、連携して交渉に臨む - 金融機関による審査
提出された事業計画や買い手の信用力を基に、金融機関が保証解除の可否を審査する(追加資料などを求められるケースも) - 契約内容変更の合意・契約締結
金融機関の承認後、保証人を旧経営者から譲受企業に変更する契約(保証差入契約など)を新たに締結する
計画的に進めることで手続きの抜け漏れを防ぎ、スムーズな保証解除を実現しましょう。
M&Aの経営者保証トラブルは専門家への早期相談で回避しよう

M&Aにおける経営者保証の問題は、旧経営者のその後の人生を大きく左右する大変デリケートかつ重要な課題です。しかし、正しい知識を持ち、周到な準備と適切な対策を講じることでリスクの回避は十分可能です。
保証を確実に解除しトラブルを回避するために、独断で行動せず、早い段階からM&Aの実績が豊富な弁護士や仲介会社などの専門家に相談しましょう。
M&Aフォースでは業界に精通した専門チームが、貴社の強みを最大限に引き出すM&A戦略をご提案します。 M&Aに関して、少しでもご興味やご不安がございましたら、まずはお気軽に当社の無料相談をご利用ください。 専門のコンサルタントが、お客様の未来を共に創造するパートナーとして、親身にサポートさせていただきます。
『M&A無料相談』を利用してみる →M&AフォースではM&Aコンサルティングの最新事情がわかる資料をご用意しています。会社の価値がわからない、会社の価値がどう決まるのか知りたいという方は「“売れる”会社のヒントにつながる9つの質問」をダウンロードしてください。
-2-1-scaled.png)